『冬のつばさ』大塚洋子第5歌集

○2021年刊、大判で2首組のせいもあり、ゆったりと運ばれながら読む。

足で足を洗ふ心地よさ古里の井戸端の匂ひふつと顕ち来ぬ
ひそやかに割れてゐるなり家のうらに空鉢なれば気づかれもせず
筑波山のふもとに嫁ぎて十二年たつた十二年妻でありしよ
○井戸や鉢…の歌、なつかしさ、手触りが心地良い。

原発の事故をも知らず私達給水の列にマスクもせずに
洗ひたるシャツの温かさ気持よさ改めて知る震災ののち
○強くさけばれた歌ではないが震災の歌としてリアルに伝わってくる。


木犀の根つこ地面より迫り出して白く乾涸ぶ骨のごとくに
冬の陽といふ字ゆゑなく親しかりわたしはいつも寒いのだらう
壁のクロス張り替へに机退かしたれば部屋の四角が寒さうにある
○上句から下句への展開に作者の感性が際立つ。

ワッペンのごとく海星が桟橋に幾人の靴に踏まれただらう
手を振りて見送るわけではないけれど港といふは寂しきところ
坂道を横切る鴉の急ぎ足つばさあること忘れてをらむ
○自然への眼差しが安定していてユーモアもある。2首目のような寂しさも感じ入るところがある。

昼食の冷し中華の卵焼く一枚二枚 眠たくなりぬ
○こういうゆったりとした歌がベースにあり癒やされる。

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