『うすがみの銀河』鈴木加成太第一歌集

○以下簡単ながら初読の感想を…。

夜空にも貸し会議室はあるだろう簡素な鍵をかたりとかけて
ささやかな焚き火へ木屑足すように色鉛筆の香を削りおり
立ち上がる一瞬野性を閃かせコンロに並ぶ十二の炎
○Ⅰ部の連作から新しい世界がふわっとひらけたように読み進む。一首目、上の句の設定だけでも面白いがさらに下句の丁寧な質感が手元にリアルな世界を連れてくる。

「あ」の中に「め」の文字があり「め」の中に「の」の文字があり雨降りつづく
「路」を「露」に「下」を「雫」に変えてゆくあめかんむりの雨季が来ている
○1首目より2首目がさらに進化していてなるほどと思う。季節も美しく出ている。

着てみれば意外と柔らかいスーツ、意外と持ちにくい黒かばん
星屑を蹴散らしてゆく淋しさをひと晩で知り尽くす革靴
公園のベンチはぬるく値下がりの苺のような時間をつぶす
○値下がりの苺のような時間…不思議な比喩だが、確かに時期を過ぎてどんどん値下がりして売れるのを待っている苺には後退していくような寂しさがある。さらっと表現されているが複雑な感情を読み取りたい。

くらやみへ沈みゆく歯のよろこびをガトーショコラも羊羹ももつ
○不穏なイメージに始まり、それが一気に下句で展開して面白い。

怪人帰りゆきたるごとくカーテンはまくれおり夜の風の校舎に
夜のぬるいプールの匂い満ちてくる人体模型の肺を外せば
○1首目、初句の字余りが強くさらに下句で劇画のように場面があらわれる。2首目は結句で1首が立ち上がっている。

製図台の腕はたたまれ北向きの部屋にみじかき昼すぎてゆく
手花火をまっすぐに持つやくそくは宵闇の祖父に教えられたり 
使はなかつた銃をかへしにゆくやうな雨の日木蓮の下をくぐりて
鉄パイプに凭れて白き曼珠沙華咲きをり。暴力が笑み有(も)つ国に
○3首目、大胆な比喩が下句の景でうまく受け止められている。4首目とどこか呼応しているようにも感じた。

水中を櫛ほどの骨ひらめかせ魚ゆけり祭り日の小川は
捕虫網の網目が影にならぬ不思議みつめて樹下の少年たりき
○1首目には痛々しさを、2首目には甘やかで儚い少年時代を感じた。




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