『青い夜のことば』

○馬場さんの全歌集から再読、第17歌集。

われよりも海は苦しむ傾きて吹雪ののちの海は起ちたり
日当れば冬芽つやめく木のそばに思案深まるごとく猫ゐる
知らないうちにだまつて咲いて鉄線につれなく過ぎた時間のやうな
○季節とともに訪れる感情の捉え方。激しさと繊細。

オリーブを竿に落してゐる二人紀元前からずつとかうして
花と死とどこか似てゐてしんみりと椿咲く日の土のつめたさ
稽古茶の茶銘はいつも「初昔」(はつむかし)むかしこひしきその初昔
高速路に霜の寒さを匂はせて夕日は花のごと落ちかかる
○花と死と…椿は咲いた先から落ちる土の冷たさを知っているような絶望感を感じる。上句が象徴的。

沖縄の基地よりあらはれし水田の遺跡あり深き思慮のごとしも
殉教の島にしづけきうたげしてここを去ること罪のごとしも
秋雷は皿にひびきて戦ける葡萄の中の甘水重し
夕暮は気むつかしげに広がりて折ふしに会ふ人影も消す
○思慮、思案という言葉がすらっと表現に使われることが多く惹かれる。

何も生まず何も与へず生かしめぬ砂のサハラの明けゆく偉大
日本に帰ればたつた一日のサハラの記憶 深い沈黙
モロッコのスークにモモタローと呼ばれたり我等小さき品種の女
○一首目、動詞にどんどん運ばれていくことに甦る巨きな景。

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