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スリというにはあまりにも堂々と真正面からやってきた スリの話(2)

前回色々なスリの手口があることをお話しましたが、今回私自身が、お金を奪われそうになって、大慌てした事件について書こうと思います。

あれは2015年頃だったか、パリのメトロの南西の一番最後の駅のすぐ近くに住んでいたころです。現金を引き出そうと、家の近くの郵便局のATMまで行ったところ、遠くのほうでロマ(昔はジプシーと呼んでいたルーマニア人)らしい父子二人がこちらを見ています。父のほうが息子に何かを指示しているような感じでした。お、ヤバいぞ、と思ったものの、お昼すぎで郵便局の中は混んでいたし、こんな真昼間からさすがに何もできないだろうと思い、郵便局の外側のATM にカードをいれて暗証番号を打ち込んでいると、なんとその息子(7,8歳くらい)が右手を差し出して上下にふる、お金を恵んでくれてというジェスチャーをしながら、私に向かってやってきます。そしてきがついたときには私にピッタリとくっついていました。

私は、ノンノン、といいながらも焦ってしまい、子供を追い払おうと画面から目を離したすきに、、、なんと、その小僧が手を伸ばしてきて、ささっと300の数字(つまり300ユーロ)を打ったんです。軽くパニックになった私、恐怖を覚えたはずなのですが、その時、自分でもびっくりするような大声で叫んだんです。

「やめなさい!!」しかもフランス語で。。。

その子供は、さすがに血相を変えた私の顔にビビったのか、少し距離をとったものの、まだ私の1メートルくらいの距離で、あの手のポーズをやりながら、お金をくださいというようなことを言っていました。

私は、急いでキャッシュカードを機械から取り出すと、時々その子をにらみながら、郵便局の中に入って別のATMに並びました。何人かの人が私の顔を振り返ってみていました。どうやら私のさっきのドスのきいた、「やめなさい!」が聞こえていたようです。
聞こえてるんなら、たすけてくれてもいいんじゃないかと思いましたが、パリのような都会では、みんな見て見ぬふりでした。

2000年以降のパリは、スリの手口も大きく変わってきていて、20年以上前のロマの子供たちが集団で近づいてきて財布を引き抜くようなことは余りありませんでした。でも、子供を使ったスリはますます増えているようでした。未成年者の場合、警察が捕まえても、結局拘束することができないのを利用した手口らしいです。

私のATM事件の後しばらくして、高校生だった次男が今度は被害に遭いました。ファーストフード店で一人座っていると、体が自分と同じくらい大きなロマの子が例のあのポーズで(手を上下にゆらしながら)もう一つの手に新聞をもって、ちかづいてきました。あっちへ行け!と言っても、しつこく体にさわってきて、やっとあきらめて行ってしまったと思ったときには、ポケットのスマホがなくなっていたそうです。

お店に相談すると、監視カメラにしっかりその様子が映っていました。
お店の従業員も、あの子供がしょっちゅう出入りして、お客が被害にあってるのだけれど、どうしようもないのだ、と言っていたそうです。

当時こちらも高校生だった長男はパリでパトカーに乗った経験があります。
ある日、クラスメイト達と外でバスケットボールをしていると、以前にも一緒にプレイした若者がやってきて、しばらく一緒にプレイ。じゃあ、と去り際に、息子の友達の一人が木陰に置いていたカバンのところに立ち寄り、その子の最新のIPHONEを手に取ると、バイクに乗って去ろうとしたのです。
その様子を見ていた友達みんなは大激怒、近くにあったバイクを借りて追いかけようとしたものの、逃げられてしまいました。

ところが、また続きがあるんです。そこにいた友達の一人も最新のIphone を買ったところだったので、その追跡することができることが判明。数分後には警察のパトカーが到着、息子たちを乗せて、女性警察官がすごいスピードで走り出したそうです。そこからは、スマホの追跡の点滅を頼りに、映画の一場面のようなスリル満点のカーチェイスだったそうです。

どの手口にも共通するのは、まったく悪びれることなく、堂々と他人の持ち物やお金を取っていくことです。真正面からやってきて、自分のものを取り返すかのように奪って逃げる。良心っていう言葉が存在しない世界なんでしょうか。

日本に旅行したことがあるフランス人が、とにかく東京や京都の治安の良さ、人の親切さを絶賛するのですが、数々のこういう場面に出くわしていると、確かに日本は、安全とサービスとお水は相変わらずタダで提供してもらえるな、と思います。

こういう経験をフランスでさんざんしてきた息子たちと、日本の私の実家のある田舎のフードコートでご飯を食べたときのこと。テーブルに携帯がおいていて誰もいないことに、(これはもちろん席取りですが)二人ともびっくりして、大騒ぎしていました。携帯やお財布をテーブルに置いていても、誰も取る人がいないって、確かにまったく別の世界に来てしまったように感じたのでしょうね。



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