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8月10日 窩堡→麦地沟

 7時に起きて、準備をする。食堂に行き、朝食を頼んだ。昨日に引き続き、ここでもたっぷりの麺だった。気を遣って辛くないものを作ってくれ、しかも、美味しい。部屋に戻って、準備して、出発する。食堂では、父と母と高校生くらいの娘と中学生くらいの息子の4人が木の実の皮をむいでいた。家族4人でこの宿と食堂をやってるのか。いい感じの家族だ。もしかして、隣のガソリンスタンドもこの家族が経営してるのか?もしかして、こんなド田舎で成功した裕福な家族なのか?
 

 4人の写真を撮って、9時出発。ここの標高は1700m。冕宁までは100kmくらいで標高はおそらく5~600m。峠はおそらく1つだけで+300m。そうなら、今日中に冕宁に着くかも。でも、この考えは非常に甘かった・・・。  

 出発するとすぐにダートになった。軽い下りだが、10km/hくらいしか出せない。都会に近づいているのに道が悪くなるとは全く考えてなかった。

 2時間くらい走ると道はさらに悪くなり、泥道になった。パンケーキの生地のようなぬかるみで、抵抗が大きく、結構な力で漕ぎ続けなければならない上に、5km/hしか出せない。参った。

 周りの景色はもう、チベットから中国に変わっている。家も町並みも中国だ。でも、景色を楽しむ余裕は全くない。川沿いに順調に進んでいるんだろうけど、なんせ、道が悪すぎる。軽い下りなのに、かなり体力を消耗する。せめて道が乾いていればいいんだけど、パンケーキの生地道路は最悪である。全然走らない。午前中に川沿いの村「江口」について、食堂で昼ごはんして、そこから川沿いを離れて上りになる。15時くらいに峠について、そこから冕宁まで、距離は40km 登坂高度はマイナス1000m。余裕で17時に到着するな、と思っていたのに・・・ 12時を過ぎたのに、まだ20kmくらいしか進めてない。パンケーキの生地道路は終わったけど、今度は上りになった。川の流れに沿って走る道だけど、ずっと下りだとは限らない。それは分かっているけど、この上りは長過ぎる。途中、適当なところで昼食にする。こんなときにもお湯を沸かして、あったかいスープを飲む。愛用のアルコールストーブなんだけど、とても手軽で、しかもコンパクト。お湯を沸かすだけなら、お勧めである。

 昼食後、悪路に苦戦しながら自転車を進めていくと、15時前にやっと江口に着いた。ここから上りになる。今日中には冕宁の中心には着かないだろうけど、冕宁の端っこには着くかな。これから進む道のかなり遠くの山の山腹に道が見える。あの道の先に峠があるんなら、とても今日中に峠には届かんな。でも、それはありえんじゃろ。あの道はどこか山の向こうの集落に通じる道だろう。上り始めて30分、民家で水道を借りて、パンケーキの生地道路を走って泥だらけになったブレーキまわりを洗わせてもらう。相変わらず未舗装だけど、パンケーキの生地でも、凸凹でも、石だらけでもないので、順調に上って行ける。16時、1時間で200m上った。17時、400m上った。そろそろ峠かな?17時半、500m上った。まだ峠の気配がない。18時、600m上がって標高は2000m。想定外だ。2000m以上の峠なんて・・・。もしかして今日は、テント泊?論理的に考えてみよう。1400mの江口から上り始め、600mの冕宁まで60km。平均4%の上りと下りだとすると、800m上がって1600m下がるので、峠の標高は2200m。5%とすると、1100m上がって1900m下がるので、峠の標高は2500m。もし、冕宁の標高が1000mなら、峠は2700m。そしたら、今日中には峠には絶対無理。やっぱり冕宁に着くのは明日か。そう考えている頃、おばあさんが向こうから歩いて来た。ぼくは自転車を押して歩いている。すれ違うときに、話しかけてきた。たぶん、どこに行くの?と聞いているんだろうから、「ミンニィン」とおばあさんの歩いてきた方向を指さして答える。すると、ちょっと何かをぼくに教えようとしている様子で何か言っている。もしかして、道が違うのか?地図を開いて見せ、ジェスチャーで冕宁はこっちじゃないの?と聞いてみたけど、おばあさんは先ほどと同じように何か言っている。道は間違ってないようだ。じゃあ、一体何を教えようとしているのか?おばあさんもジェスチャーを交えて、一生懸命話を続ける。やっとわかった。「今日中に冕宁に着くのは無理だから、うちに泊まっていきなさい。」なんて親切なんだろう。ぼくが眠りについたら、おばあさんは包丁を研ぎ始め、「日本人の肉は初めてだ。おいしいんかなあ。」という可能性がないことはないけど・・・。でも、もうちょっと先まで進んでおきたいので、「ありがとう。でも、今日中にもう少し上っておきたいので、もう少し先に行くよ。」と伝えた。すると今度は「お腹空いてないの?晩ごはん、食べていきなさいよ。」なんて優しいおばあさんなんだろう。ここで、かなり美味しい料理が食べられるなら、ごちそうになるんだけど、そんなに甘くはない。最悪、料理の中に、毒キノコが入っていて、「日本人の肉は・・・」なんてことはあるわけないけど、「ありがとう。でも、食料も持ってるから、先に進みます。本当にありがとう。」と言って、再び自転車を押し始める。
 

 18時半、雨が降り始めた。おいおい勘弁してよ~。今日も雨の中でテントかよ~。いや、今日はテントかもしれないけど、民家の軒の下にテントを張らせてもらえるだろうから、そんなにたいぎくはないか。19時、標高は2200m。後ろから来たピックアップトラックが止まり話しかけてきた。「乗って行けよ。」断ると、「今日中に冕宁には行けないよ。雨も降ってるし、後ろに自転車載せられるから、乗って行けよ。」ありがたい。でも、明日中に冕宁には着くだろうし、最悪明後日でも、帰りの飛行機には余裕で間に合う。ここで車に乗せてもらうと楽なんだけど、それに、この人達と冕宁でおいしい晩ごはんを食べることができるかもしれないけど、やっぱり、自転車で峠を越えたいんよね。「ありがとう。でも、ぼくは休暇でここを自転車で走っている。雨が降ってるけど、今夜は適当なところでテントを張るから、このまま進むよ。」と言って断った。手を差し出し、握手をして、もう1度お礼を言って車を見送った。

 19時半、標高は2300m。やっぱ、今日中に峠には着かないな。江口から見えた、遠くの山腹の道がだいぶ近づいて見える。周りを見渡すと、来た道の方向以外は山に囲まれている。当然、向こうにある冕宁に行くには、どこかの山を越えなくてはいけない。やっぱり、江口であの山腹の道が見えた時点で気付かんといけんかったよね。そしたら今日中に峠を越えるのは無理だと気付いてたから、あのおばあさんちに泊めてもらったのに・・・と考えながら、雨の中、自転車を押して上る。そろそろテントを張る場所を探そう。というか、民家に頼もう。まず、1軒目、50代男性が出てきて、怪訝な顔をする。庭にテントを張らせて欲しいとジェスチャーで頼むと、相変わらず怪訝な顔で何か言っている。どう考えても、いいよ、とは言ってない。まあ、こんな人の家になんか世話になりたくないから、先に進む。2軒目、門をくぐると40代男性2人がいた。この男も嫌な顔をしてあっちへ行け!というジェスチャー。3軒目、中学生くらいの女の子が出てきた。後ろから父親らしき人が出てきて、彼にテントを張らせて欲しいと頼む。しかし、やっぱり、ぶちぶち嫌な顔をして断られた。うちに泊まっていけと言ってくれたおばあさん。乗っていけと言ってくれたお兄ちゃん。この辺りの人はみんな親切なのかと思っていたら、大間違いだった。ああ、やっぱりあのおばあさんちに泊めてもらえばよかった。雨の中テントを張って寝て、翌朝雨の中テントを畳んでパッキングするのはぶちたいぎい。それに比べ、屋根の下にテントを張るのは非常に快適だ。後悔しながらテントを張る場所が見つかるまで先に進む。車が突っ込んできたら困るので、カーブの外側は避ける。落石があったら困るので、山側は避ける。そんな都合のいい場所はそうそうない。20時前、ぶちぶちいい場所があった。小屋が隣にある空地だ。ほんの少しだけど、軒下がある。20cmほどだけど、雨がかからないところがあるのは助かる。そこに荷物を置いて、空地にテントを張る。テントの中でお湯を沸かして夕食にする。今夜はフリーズドライのクリームシチューとカロリーメイト。やっぱりカロリーメイトより、パンの方がいいな。よく売ってる直径30cmくらいの円盤状のあのパンを1つ買っておけばよかったな。
 夕食後寝袋に入って、目を閉じる。フライシートに当たる雨の音に時々車が通り過ぎる音。心地よいとは言えないけど、悪くはない。でも、晴れてたら、星がいっぱい見られるんじゃろうなぁ。テント2泊で2日とも雨とはついてない。

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