変わらないものの中に際立つものが見えてくる
ツバキ文具店 小川糸 2016
2017年の本屋大賞の1位から3位は、
蜜蜂と遠雷、みかづき、罪の声であった。
どれも激しい感情の起伏、ダイナミック
で力強い表現が強く印象に残っている。
その中で僅かの差の4位である。
激しさの反対の方にある静けさ。
日々の淡々とした静けさの中に、
表現することへの情熱を感じる。
小高い山の麓にある小さな一軒家。
主人公は小さな文具店の主として、
そこで一人、日々を繰り返している。
毎日、決まった日課を繰り返し行う。
そこにある無駄のない動きの美しさ。
家の前の昔から変わらぬヤブツバキの木。
周辺の山々にみる季節や小鳥のさえずり。
ゆっくりとした時の流れの中に、季節の移ろい、
人の心の中の機微が、繊細に描き出されている。
研ぎ澄まされた観察力がある。生活している者の
感情豊かで精密な視点があり、対象をしっかり
見つめることで、奥行きのある表現が生まれる。
派手さはないけれども、深く心に響く作品である。
変わらないものの中に、際立つものが見えてくる。
ささやかなものが、とても美しくも感じられる。
そのような情景が思い浮かんで、期待が高まる。
じっくりと時間をかけて楽しみたい小説である。
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