粒マス事件
プロのスタッフの皆さんのご協力により、書籍のメインコンテンツたるレシピ部分の草稿が固まりつつあった。
料理に不慣れな私が本格的に料理に取り組む上でまずやらなければならないことは「材料を揃えること」だった。
草稿から必要な食材をリストアップをしていると、あるところで手が止まった。
「粒マス」
……
粒マスとは……?
いや、少し考えればわかる。
マスというのは、おそらく魚のこと。鱒。
その粒ということはつまり、魚卵……!!
確か、そんな名前の黒い粒々を以前どこかで見たような気がする。
オッケーブロッコリー。
とにかく魚介コーナーに行けばすぐにわかるはずだ。
編集のナカジマさんに粒マスデビューしてきますと連絡すると、私はスーパーの魚介コーナーへと向かった。
◇
............。
......魚介コーナーにそれらしいものは見当たらなかった。
売り切れてしまったのだろうか……。
粒マス。
さすがレシピ本に載るだけのことはある人気食材。
あるいは、旬を過ぎてしまっているのだろうか。
謎は深まるばかり。
時刻は19時を少し回った頃。スーパーの魚介コーナーの窓口は既に閉まっていた。
レジの店員さんに聞くのも何か違うような気がしたので、いったん帰って出直すことにした。
◇
翌朝、ナカジマさんからのメールには「粒マスデビューおめでとうございます」と添えてあった。
いや、それができなかったんですよー、とひとりごとを言いながらメールの本題である資料を開くと、ふと「粒マスタード」の文字が目に入った。
……
……あっ……
粒マス......!!!
…...あなた粒マスタードだったのね!!!!?
いや、まだだ!
まだ私は諦めない!!
ブロッコリーは諦めないィッ!!!
まだ、粒マスタードに入っている粒の正体が魚卵だというセンも……
ネット検索「粒々の正体はマスタードの種です」
ぐぅ……
これは完敗。
明日に乾杯!
ナカジマさん、まいりました!!(?)
◇
後日、私が改めて購入した粒マスが種入りマスタードと呼ばれる亜種(種マス)だったこともあり、「粒マス」のエピソードはレシピ本制作において私が料理に不慣れであることを象徴するかのようなエピソードとなった。
ちなみに私が粒マスだと思っていたものは「真鱈の子」であることがのちに判明。
料理とは本当に奥深いものである。
(つづく)
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