見出し画像

王将ラーメンぶちまけ事件

小さい頃、父、弟、私で近所の王将へご飯を食べに行ったことがあった。弟はまだ三歳くらいでよちよちとしているくらいの年齢だったと思う。

事件は,ご飯を食べ終わってさて帰ろうという時に起こった。弟が椅子から降りようとした時、まだ地面に足が届かなかった弟は、机に手をかけて地面に降りようとした。しかし、弟が手をかけたのは机ではなく、ラーメンの器だったのだ。

弟の体重が乗ったラーメンの器は、てこの原理でぐるんと回って、汁が空中に飛び散った。あの時の光景はまだありありと頭の中に残っている。まるでスローモーションのように飛び散るラーメンの汁、「きゃー」という隣の席の悲鳴、私は中学生だったので「やっちまったな」ということは理解できた。

その後、勢いよく飛び散ったラーメンの汁は隣の席のおばちゃんたちにかかってしまった。父は急いで隣の席へお手拭きを持っていき、頭を下げた。「申し訳ございません!クリーニング代はお支払いします!」と。私はその時初めて頭を下げて他人に謝る父の姿を見た。なんだか無性に悲しくて、悔しくて、父が悪いわけじゃないのにな、と思ったのを覚えている。必死に頭を下げる父の横顔を見ながら、保護者って大変だなあ、と思ったのも覚えている。だって弟は悪いことをしたわけではないのに。もちろんわざとでもないし。

でも、その場から動けずに何もできなかった自分が一番情けないなと思った。あの時、私は状況を理解できていたのにも関わらず、咄嗟に弟と同じ立場に立つことを選んだのだ。あの時、中学生の私が必死に頭を下げていたら、周りの見る目や状況は少しは違ったんじゃないかと思う。私は、あの場における一切の責任を父に押し付けてしまったのだ。

その地獄のような空気の中、ラーメンの汁がかかってしまったおばさんたちはカンカンに怒って、父親に「クリーニング代は結構です、ただ子供の躾はちゃんとしてください」と言い放った。父はそのことを後からとても怒っていた。大人だってジュースや水をこぼすことだってあるし、ましてや子供が何かをこぼしたりすることはあって当たり前だ。それを躾で防ぐことができるのだろうか。多分おばさんたちも分かっていたと思う。でも弟にぶつけるわけにもいかない怒りを理不尽な言葉で父にぶつけたのだ。

王将から3人で肩を落として帰っている中、流石にことの重大さに気づいた弟が、「わざとじゃないよ。」と申し訳なさそうに何度も言っていた。もちろん気をつけないといけないことで、人に迷惑をかけてしまったけれど弟に謝らせてしまったことを申し訳なく思った。「わざとじゃないし、悪くないよ。」としか言えなかった。

父は私たちのせいでどれだけ悔しい思いをしてきたんだろうか、今回の弟のことだけじゃないんだろう。悔しいと思いながら、頭を下げるしかなかった父のことを思うと、なんだかとても申し訳ない気持ちになる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?