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『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の「PROLOGUE」が素晴らしかった件

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が始まった。テレビでの新作アニメは5年ぶりらしく、だからだろうか、なんとなく目について少し遅ればせながら配信で見た。

正直に言うと、第1話だと思っていたものが第1話ではなく「PROLOGUE」とタイトルがついた前日譚(エピソード0)だったことに気づいたのは、見終わってからだったが、とにかく面白いと思った。

物語の作り手として、以下、私なりに解説してみたいと思う。
(やんわりネタバレあります。ご注意ください)

見どころ①:「犠牲者」の作り方が秀逸

「PROLOGUE」はストーリーの型で言うと「悲劇」の構造になっており、主人公の周りの人がどんどん死んでしまう。

最初の話で、大切な人が失われていくというのは、物語の作りとしてはよくあることで、ガンダムでパッと思いつくのは『ガンダムUC』、それ以外で言えば『梨泰院クラス(リメイクも六本木クラス)』とかも同様である。

つまり、父というかけがえのない存在が亡くなり、そこから主人公のストーリーが始まるのだ。

とても大切な人が犠牲になることで、見ている我々に感情移入が生まれるだけでなく、主人公にも新たな目的や動機が生まれ、物語への期待が大きくなる。

主人公が愛されば愛されるほど、あるいは不幸になればなるほど、私たちはそのキャラクターに共感し、感情移入もする。

そこで生まれた障害を乗り越えてほしいと思うし、新たに見えた目的を達成して欲しいと思うのだ。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』では実際に父親も犠牲になるが、それ以上に「カルド・ナボ」という今回のガンダムの産みの親的存在の博士の存在が光った。

物語において、主人公側の価値観を語り、その精神的支柱でありながら、その者が惜しくも犠牲になるということはとても多い。

それは、その者の代わりになるという使命が与えられたということに他ならない。犠牲者の存在が大きければ大きいほど、そうなって欲しいと主人公の成長に期待が膨らむのだ。

見どころ②:シナリオでの「重ね技法」が秀逸

「PROLOGUE」においては、主人公がいかに周りに愛されているかが描かれ、至る所に「重ね的技法」が駆使され、短い時間の中で最大限の効果を生んでいたと思う。

ガンダム・ルブリスがまだ生まれたての赤ん坊であるのは主人公の状態と同じだし、その始動と主人公の覚醒も重ねられる。

誕生日を祝うローソクとモビルスーツの爆破が重なられたり、4歳という年齢と最後に父親が死を覚悟して上げたパーメットスコア4なども、はっきりとは言語化できないレベルかもしれないが、素晴らしい効果をもたらしている。

そういった様々な思いが積み重なった上で、主人公の覚醒した瞬間、特にその時の母親の複雑な表情、そこで入る音楽の迫力は、本当に素晴らしかった。

見どころ③:物語性の表し方が秀逸

「PROLOGUE」の役割は言うまでもなく、その世界観を提示し、第一話からのストーリーに対する期待を高めることだが、それも見事に表現されている。

そもそも世の中の物語は大きく分けると「目的を達成する」か「障害を乗り越える」かのどちらかに分かれる。
(この二つは、「目的」と「障害」のどちらが先に来るかの違いで本質的には同じとも言えるのだが、ストーリーの作り方としては、キャラの配置など大きく変わってくる。)

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は、この先の展開を知らないが、この「PROLOGUE」の作り方を見るに、おそらく「障害を乗り越える」タイプのお話であろう。類まれな素質と才能を持ちながら、続々と現れる障害や敵対者にぶつかっていくのではないかと思われる。

もちろん、次第に仲間が見つかったりもするだろうが、大きくは孤独な主人公を頑張れ!と祈りながら見ていくタイプなのだろうとこの「PROLOGUE」を見て確信した。

そうやって生まれる予測や期待が裏切られるとストレスになってしまうし、今回に関してはそこを明確に象徴的に描いた「PROLOGUE」であろうし、その役割が見事に全うされていると感じたのだ。

孤独な状況でも挫けず頑張って欲しいと思える主体のキャラクターと、そこに込められた祈りや希望(これは周りのキャラクターによって与えられている)、そういったものが十分に詰め込まれていた。

「悲劇乗り越え型」の物語性が、「PROLOGUE」の終わり方に完璧に表現されているだけでなく、こういった類のストーリーに必須と言える強力な「敵対者」も見事に提示され、「PROLOGUE」の終了間際ラスト1行の台詞にゾワっとしたものも多いだろう。

また、こういった「悲劇」系ではなかなか表現しにくい、クライマックスの高揚感も、ガンダムの起動と一瞬でも圧倒的強さを見せる瞬間で見事に叶えられていた(ただし、野放しに喜べない切実な母の表情がより深い味わいを与えている)。

また、これも後で知ったが、YOASOBIの歌う主題歌『祝福』は、本作の脚本家でもある大河内一楼さんが書き下ろした短編小説を元に作られている。

■「ゆりかごの星」(オープニングテーマ YOASOBI「祝福」原作小説)
https://g-witch.net/music/novel/

この小説には9行目に明らかになるすごい仕掛けがあるが、そこから先に生まれる感情移入を支える文体とコンパクトなストーリーは見事だと思った。

歌詞の内容は、上記の「PROLOGUE」の内容にも呼応しつつ、「PROLOGUE」と本編の第一話をブリッジする内容ともなっている。本編を大いに引き立てるものであり、小説を読んだ上で歌詞に注目して主題歌を聴くと、世界観の連続性に唸る。

■YOASOBI「祝福」Official Music Video (『機動戦士ガンダム 水星の魔女』オープニングテーマ)
https://www.youtube.com/watch?v=3eytpBOkOFA

というわけで、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』には久々にワクワクする。この先の本編も楽しみにしていきたい。

■『機動戦士ガンダム 水星の魔女』オフィシャルWeb
https://g-witch.net/

■『機動戦士ガンダム 水星の魔女』  in Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B8NWMVCG

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