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『物語の作り方』第2章~構成の作り方~

○構成とはなにか?

 皆さん、構成というとどんなことを思い浮かべるでしょうか?例えば「起承転結」といった言葉が浮かぶかもしれません。あるいは「序破急」といった言葉が出てくる人もいるでしょう。
 日本では「起承転結」と言う言葉が有名だと思いますが、ハリウッド映画などでは「三幕構成」という言葉が一般的です。ただし、内容に関しては似ています。つまり効果的にものごとを伝えるための方法には共通する特徴があるということなのです。
 この本では「人を感動させるストーリーを作る」ことをゴールとしていますが、人を感動させるストーリーは、デタラメには作れません。ものごとには、伝える順序や伝え方といったものがあります。
 それはテレビ番組などで「すべらない話」を聞くときに、芸人さんの絶妙な話し方によって面白さが変わるのと同じです。伝える順番を少し間違えるだけで、あるいは抑揚のつけ方次第で、台無しになってしまうこともあるのです。
 陸上選手がより早く走るためのフォームがあるように、バイオリニストがより良い音を奏でる練習方法があるように、ストーリーを作るのにもれっきとしたメソッドがあります。
 情熱のままにストーリーを進行させるのが間違っているとはいいません。理論的に作られたストーリーでは時に感情が動かされないのも事実です。しかし、メソッドとはそれ自体がゴールではなく、宇宙に飛び立つロケットがまずは成層圏あたりまで辿り着くためのブースターだと思ってください(あの宇宙手前で切り離すやつです)。
 まずはそのロケットブースターでできるだけ高くまで飛び、その先に、あなたの才能が花ひらくイメージを持ってもらえたらと思います。
 それではこの章で具体的に構成の作り方を学んでいきましょう。

○三幕構成

 まずは、ハリウッド映画で構成のベースとなっている「三幕構成」というものを学んでいきたいと思います。
 この「三幕構成」という概念は、古くはアリストテレスがギリシャ時代に提唱したとされています。つまり、ストーリーの型は約2000年前にすでに完成していたと言えるのです。そう思うと驚きですね。
 この「三幕構成」という概念は、その後シド・フィールドという人によって、映画業界に広まりました。今では、これをベースにしていない映画はないかもしれないというくらい、一般的な理論になります。
 ちなみに「三幕構成」は通常下記のように定義されています。

一幕:設定 (Set-up)
二幕:対立 (Confrontation)
三幕:解決 (Resolution) 

 「設定」「対立」「解決」という言葉をみて、なんとなく内容が窺い知れると思います。つまり、一幕で色々な設定が描写され、二幕でストーリーが展開し、三幕で終結するということです。
 また1章でCQについて説明しましたが、私の言葉で言えば、CQを提示するのが一幕の役割と言えます。つまり、主体がいる世界や主体のキャラクターが描写され、その目的や障害が提示されるのです。そして、二幕でCQ達成に向けてストーリーが展開され、その中で多くの場合、対立や葛藤が描かれて行きます。最後の三幕において、CQが達成されるかどうかの結論が出るのです。

 ちなみに、一幕から三幕までの時間的比率は1:2:1が基準になります。つまり120分の映画であれば一幕30分、二幕60分、三幕30分という具合です。
ただしこれはややクラシックな配分と言えるかもしれません。昔であればそのような配分が当たり前だったのですが、CQを早く出す傾向になる昨今は、一幕がもっと短く、0.5:2:1.5のような感じと思うのが良いと思います。
 特にテレビドラマなどでは一幕が短くなっており、開始3分でCQが提示されることも当たり前です。刑事ドラマなどで言えば、冒頭に殺害現場のシーンから始まり、実況見分などが行われている中、主体である刑事が登場し「さあ、果たしては主体はこの事件を解決できるのか?」というCQが提示されるのです。
 もし60分のドラマを1:2:1で割り振れば、15分:30分:15分ということになりますが、今のテレビドラマのテンポで言えば、一幕は5分くらいが限界でしょう。5分以内に今回のエピソードが何を期待してみればいいかが分からないと離脱されてしまうからです。テレビのようにチャンネルを変えれば別の番組がやっているようなメディアでは、いかに視聴者の心を捕まえて離さないようにするかの勝負になります。それゆえ、一幕を短くし、早くCQを提示するのです。
 これが映画や演劇の場合、一度席に座ればほとんどの人は最後まで見てくれるので、もう少しじっくり時間をかけて第一幕を描くことができます。ただ人は何に期待していいかわからない時にストレスを感じます。また色々なメディアで、CQは早く提示される傾向にあるので、ストレスを感じさせず、CQを早めに提示することが、結果、結果満足度を高めるためにも有効なのです。
 そういう意味では、一幕の長さは、全てのメディア、ジャンルで短くなっていると考えていいでしょう。そして何より重要なのは、それはCQの提示を早くするためだからです。
 ちなみに、例に出した上記の刑事ドラマなど、主人公が出てきて、「さあ、果たしては主体はこの事件を解決できるのか?」というCQが提示された直後に、ドラマのオープニングタイトルが入ることが多いです。逆にいうと、タイトルが入る直前にCQが提示されているということになります。
 そういった見方をすると、物語のCQがキャッチしやすくなりますので、一つの目安として覚えておいていいと思います。

○そもそも人が好ましいと思う矢印は何か?

 構成の話を続ける前に、根本的な話として、人はどんな時に喜びや満足を感じるのかを考えていきたいと思います。例えば、下記のような三つの矢印を見ていきましょう。

(図2-1 3つのバラバラ矢印)

 この中で、人が嬉しい、心地よいと感じるのはどれでしょうか?おそらく、真ん中の右上がりの矢印だと思います。人間は、スタート地点よりゴール地点が上がっている方が喜びます。これは学校の勉強の成績でもそうですし、株価のチャートでもそうでしょう。人は時間が進むに連れて、上昇することに喜び、下降すれば不満や落胆を感じるのです。
 それでは次の図ではどうでしょうか?

(図2-2 3つの右上向き矢印)

 おそらく、上昇率の一番大きい、右端の矢印を選ぶ人が多いと思います。同じ仕事であれば、時給800円より時給900円の方が嬉しいのと同じで、同じ時間の中で、できるだけ多くの上昇があることを望むというのが人間というものなのです。
 ちなみにこの上昇を望むのは、重力があるからだとも言われます。重力があることで、人は地面に押さえつけられ、それゆえ下がるより上がることの方が嬉しく感じるという理屈です。
 給料が上がる(下がる)、気分が上がる(下がる)のように、上がることがデフォルトで良いとされているのは、重力の関係があるのかもしれません。もし無重力環境で生まれ育った人間たちがいたら、このような感覚が当然ではなく、言葉の定義も変わるのかもしれないと思うと、興味深いですね。

 それでは次に少し応用していきます。下記の図を見た時にどちらが好ましく思うでしょうか?

(図2-3 矢印とV)

 錯覚でそう見えないかも知れませんが、実は左右とも始点と終点は位置同じです。なので、始点から終点の上昇度合いは同じなのですが、なんとなく右側の方が上昇度が高く見えないでしょうか?二つを並べて、どちらを好ましく思うかは人それぞれかもしれませんが、ストーリーに置き換えると、右側の方がよりドラマチックで好まれると言えます。

 ストーリーメソッド的には、左に比べて右の矢印には二つのメリットがあります。まず一つめの理由は、一度下降してから反転することでより上昇していることがはっきりすること。そして、一度落ちた分、見かけ状の上がり幅が大きくなっているのが二つめの理由です。

(図2-4)矢印とVの比較

 風邪を引くことで初めて健康のありがたみが分かるという経験は誰にでもあると思います。「慣れる」というのは人間にとって重要な本質の一つだと思いますが、同じ調子で上昇しているより、一度下降してから大きく上昇する方が、体感としては上昇度が大きく感じるものです。
 一度負けた相手に勝つなど、できなかったことができるようになる方が、成長などの意味あいが明確になりますので、反転して「V」を描く方が理に叶っているのです。
 これはストーリーを作る上でもっとも重要な原理の一つです。構成の極意とは、この「V」の作り方、積み重ね方と言っていいでしょう。根本にある原理を理解することで、より効果的な構成の作り方が見えてきます。
 基本の考え方は「右上に上がる矢印を作りたい」→「上がり方を効果的にするために、一度落として上げるというVを作る」です。それに加え、スタート時にいきなり下降していくのはストレスという考え方を加味します。すると、ちょっと上がってから下降し、さらに反転して上昇というのが、合理的だという結論になるのです。
 それをアナログな曲線グラフにすると以下のようになります。

(図2-5 ドラマカーブ)

 私はこの図に①〜⑦のポイントをつけて「ドラマカーブ」という言い方をしています。

(図2-6 ドラマカーブ+7つのポイント)

 これが今後も繰り返し出てくる「最も基本的な構成の型」だと思ってください。ではここから詳しく見ていきましょう。

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