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86.遂にリリース! 「世界を変える」か Bloodywood / Rakshak(2022、インド)

コアメンバー3名
フルメンバー、後ろ3名はサポートメンバーか

今聴くべきメタル度 ★★★★★

Bloodywoodは何が衝撃的なのかを考えている。彼らのデビューアルバム「Rakshak」がリリースされた。彼らに出会ったのは2019年。僕がこのブログを始めようと思ったのもBloodywoodのこの曲に衝撃を受けたからだ。

ボリウッドとエクストリームメタルの融合という衝撃。”まだ『全く新しい音楽体験』があるんだ”という感動。彼らは「インディアンフォークメタル」と自分たちを呼んでいるが、インド音楽とメタルミュージックの相性の良さに驚いたし、何よりそういうギミックやコンセプトを越えて単純に音楽が衝撃的だった。MVも含め、映像と音が完全に一体化して記憶にこびりつく。何度も何度も見直した。いわゆる「波長が合った」のだろう。

そこから3年近く。だいぶ待ったがようやくリリースされたデビューアルバム「Rakshak」を聴きながら改めてBloodywoodの衝撃について考えている。

インディアンフォークメタル、と言っても彼らはインドの伝統音楽にそれほど影響を受けているわけではない。むしろ、バンド名の通り「ボリウッドサウンド」つまり映画音楽、インドの「今のヒット曲」とエクストリームメタルというかニューメタル、ラップメタル的な音像を見事に融合して見せたのがBloodywoodだ。だから日本のBabymetalに近い。Babymetalが「ジャパニーズフォークメタル」と言われたら違和感がある。なぜなら別に「日本の伝統音楽(フォークミュージック)」の影響はほとんど感じないから。「今、日本で流行っている音楽+メタル」であり、Bloodywoodも基本的には同路線。インドならではの伝統楽器なども用いられているが、それは単純に「今のインドのヒットソング(映画の主題歌が多い)」でも伝統楽器や歌唱法が用いられているからだ。だから、基本的に娯楽性が高い。「伝統音楽+メタル」というフォークメタルにありがちなプログレッシブな要素は少なく、完全な「大衆音楽」「大衆を盛り上げる音楽」である。その潔さもすごく新鮮に響いたのかもしれない。

それはMVの娯楽性にも表れている。一つ一つの作品が分かりやすく、ドラマがある。

デビューアルバムを通して聞いてみて改めて思うが、全然小難しさがなく非常にポップ。攻撃性はしっかりある(ディストーションが聞いたザクザクしたギター、スクリームなボーカル)のだけれど、基本的にノリが良いしそこまで重苦しくない。カラッとした軽快さ、陽気さ、ポップさがある。この「力強い分かりやすさ」が最大の個性かもしれない。だって「インディアンフォークメタル」という響きはマニアックでしょ? だけれど、実際に聞いてみるとめちゃくちゃ分かりやすい、「おお、ボリウッドとメタルか!」という一発ネタ的なバズ要素と、何度も繰り返して聞ける中毒性=音楽的強度がある。

もともとボリウッドのヒット曲をメタルっぽくアレンジしてYouTubeにアップする、という活動からスタートしたバンドであり、いかにもイマドキなYouTube発のバンド。なのでそうした「話題性」とか「社会との共感」を得るための嗅覚が優れている。単純に「音楽だけ」を掘り下げているわけではなく、プロデューサー視点があるというか、出す作品一つ一つの意味付け、物語が考えられている。

能天気なだけではなく、心の病、鬱病との闘いについての力強いバラードを心のケアを行っているNPOと組んで出したり、(インドで社会的問題となっている)レイプについてのメッセージを出したり、いじめ問題についての歌も出している。

こうした深刻なテーマを取り上げながらも「聴きやすさ」「ポップさ」を持ち、話題性を生み出すようなセンスは流石としか言いようがない。日本でもトップYouTuberと呼ばれる人たちはそうした「物語を紡いでいくセンス」が優れていると思うが、彼らにも通じるものがある。

あと、リーダーで創立者であるギターのKaran Katiyarはもともと法律家で、ボーカルのJayant Bhadulaはもともとタレントマネージャーをしていた、いわばビジネスマンと音楽業界人。なので、バンド活動に関するアプローチも大人というかこなれていて、新人バンドによくある「不本意な契約でレーベルに縛られた」といったことがない。「Bloodywood Media Pvt. Ltd.」という会社を作ってKaranがCEO。自分たちでビジネスをコントロールしている。けっこう社会的な問題に切り込んだり、DIY(Do It Yourself)でハードコアな精神を感じるところもあるが、それはそうしたインディペンデントな姿勢にも共感しているのかもしれない。まだデビューアルバムも出していないバンドなのに90分のドキュメンタリーを制作してYouTubeで公開しているなど他のバンドには見られないプロデュース意識、ストーリーを作っていく意識が見られる。

もともとは「音のインパクト」で掴み、興味を持って掘り下げていくとしっかり作り上げられた世界観、物語を持っていて、しかもそれを発信する方法が上手い、という点が音楽性だけでなくバンドの在り方としても衝撃的だったのかもしれない。本作がデビューアルバムという「新人バンド」なのにすでに一定の存在感、自分たちのキャラクターを確立しているのは新世代のバンドという気がする。

だいたい、新人バンドなのにデビューアルバムにかなり長い時間をかけている。大半の曲がシングル曲としてYouTubeでアップされていたにも関わらず、アルバムとして通して聞くと違って聞こえるというか、MVよりもポップに、解放感を持って聞き通せたのはちょっと驚いた。あっさりしているというか「また聞きたい」と思わせる中毒性がある。かなり激しめの音像なのに食傷感がないのはやはりキャラクターが立っているのだろう。とにかく面白いバンド。Bloodywoodは「ラクダの背を折る最後の藁」になれるだろうか※。

※Machi Bhasadのテーマ。詳しくはこちらの記事をどうぞ。


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