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PERFECT DAYS 東京の<いま>物語

ヴィム・ウェンダースの最新作「PERFECT DAYS」は、東京を舞台とし、TTT(THE TOKYO TOILET)プロジェクトの一環として制作されている。都内を歩いていると突如現れる、あのオシャレなトイレです。

役所広司さんが演じるのは、東京の公共トイレを掃除する清掃員の平山。淡々と繰り返される彼のルーティーンは、質素かつ文化的な理想の下町生活であり、一種のファンタジーのようでもある。

本作では、さまざまなものが、新旧の対比として描かれている。その中で重要な装置となるのが、カセットテープだ。平山は通勤時に車のステレオでカセットテープの音楽を聴く。

カセットテープから流れる音楽は、作品と強くリンクしており、非常に重要な要素となっている。音楽や文学のような普遍的なものが、異なる世代の人を繋ぐ装置として機能している。

アヤ(アオイヤマダ)やケイコ(麻生祐未)のような若い世代は、カセットテープの使い方を良く知らない。一見、平山とは対照的な存在である。しかし、その前時代的なものに平山を通して出会い、世代を超えて惹かれていく。

さらに対照的な人物として描かれるのが、同じ清掃会社で働く若者・タカシ(柄本時生)である。

序盤は彼の評価主義的で醜悪な一面が描かれている。一見、東京物語に出てくる兄弟達のようである。ところがあるエピソードで、その醜悪さは彼のあくまで一面だと気付かされる。

このような仕掛けは、あざとさを持ちながらも、あらゆるシーンで散りばめられている。

雲が影を作る。
平山は、東京画の釘師を思い起こさせた。

東京画では、東京への諦めや皮肉めいたものが感じられた。小津安二郎の映してきた東京は、とっくの昔に無くなった。今作で描かれる東京は、それぞれの<いま>を生きる私達の目にどのように映っただろう。

東京や清掃員の生活のリアルさの欠如は、批判の余地があるかもしれない。それでも彼の生活が愛おしく見えてしまうのは、私の中の東京への憧憬が育ちすぎているのだろうか。

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