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保育園の子どもに対するプラスの効果は実証されている。

 保育園における保育が、子どもにプラスの効果を与えていることが、徐々に実証的なデータの分析によって明らかになってきます。保育のデータアナリシスは、オールジャパンで取り組むべき投資価値の高い施策ではないかと思っています。

保育の早期教育

(出典)「家族の幸せ」の経済学 山口慎太郎 光文社新書 2019年
    P208図表5-3


保育所保育の実証研究

 幼児に対する早期教育の重要性については、ノーベル経済学賞を受賞したヘックマン氏の「幼児教育の経済学」という著書が有名で、早期の幼児教育は(社会的)投資効果が高いという評価がなされている。
  なお、ここで高く評価されているのは早期教育であって、英才教育ではないことに注意して欲しい。いわゆる「お受験」推奨という研究成果では、全くなく、むしろ政策的含意は、集中投資よりも「薄く広い」投資を含意していると筆者は理解しているが、この点は、本稿の主眼ではないので、このあたりで切り上げたい。

 早期の幼児教育、特に保育園への通園の効果について、昨今、「『家族の幸せ』の経済学」という興味深い新書が発刊され、この新書の第5章は、「保育園の経済学」と、そのものズバリのタイトルが付されている。
 この章の中心は、「厚生労働省 21世紀出生時縦断調査」の結果を、新書の著者である山口慎太郎教授が分析したものだ。この厚生労働省の調査は、「同一客体を長年にわたって追跡する縦断調査として、平成13年度から実施している統計調査であり、21世紀の初年に出生した子の実態及び経年変化の状況を継続的に観察することにより、少子化対策等の施策の企画立案、実施等のための基礎資料を得ることを目的」としたもので、21世紀の初年度である2001年出生時と2010年出生児について、次のような調査事項を、毎年調査しており、調査集計人数は、2万人以上となっている大規模な調査である。

<調査事項>
 同居者、学校生活のようす、起床時間・就寝時間、食事のようす、習い事等の状況、1か月の子育て費用、病気やけが、身長・体重、父母の就業状況 等

<調査結果の掲載ホームページ>
2001年出生児調査
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/27-9.html

2010年出生児調査
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/27-22.html


 冒頭の表は、この統計調査を山口教授らが独自に再集計、分析し、保育園に子どもが通っているケースとそうでないケースを統計的に比較した結果表だ。
 この表では、統計調査の設問項目への回答を分析者が独自に「言語発達」「多動性」「攻撃性」を示すものとして解釈し、その度合い、大きさを定量的に評価している。
 表では、左に行くほど、保育園に通っていない子どもとの比較で、その評価量が小さくなり、右に行くほど、大きくなるという形で図示されている。
 なお、詳細な表の見方については、ぜひ、出典元の新書を参照していただきたいが、かなり説得的なデータ分析ではないかと思っている。


保育園は、言語発達を促す

 この結果で注目したいのは、保育園に通っている子どもの言語の発達が、通っていない子どもに比べて、相当程度進んでいるという結果になったことを示した点だ。表では、「言語発達」の欄の三角や丸のマークが大きく右に偏っていることで示されている。
 (母親の学歴で代表される)家庭環境の状況に関わらず、保育園に通っている子どもの言語発達が、保育園に通っていない子どもと比較して、伸びていることが統計的に検証されている。つまり、家庭における生育条件が相当程度コントロールされた上で、保育園に通うことの効果が示されており、大変興味深い。

 というのも、筆者も保育園の発達記録の分析を行ってみた結果、保育園の園児の発達の差異は、主にコミュニケーションの発達の差となって現れることが確認しているからだ。
 さらに、3歳児クラスの園児の発達状況の分析を行った際には、2歳児クラスから継続的に通園している園児と、3歳児クラスから初めて当該園に通園し始めた園児との間で、言語領域の発達に顕著に差があることも確認できた。
 もちろん、新規入園児は、転園してきた子どもの可能性もあるが、3歳児未満の子どもの保育施設の利用率が低いことから、この新規入園児の多くは、3歳児から保育園に通い始めた子どもが多いと想定することができる。
とすると、3歳までの保育園への通園が、言語の発達の差異を生み出していると言ってもよいのではないかと思われる。


保育データの分析には投資価値がある

 厚生労働省の「保育所保育指針」では、繰り返し、子どもの状況や発達過程を的確に把握することを求めている。
 数値化したデータで、子どもたちの発達状況を確認、分析することは、コンピュータの利用によって、より効果的に行うことができるようになっているし、それをよりビジュアルで表現することも可能になる。
 今回紹介したように、データ分析によって、子どもたちの発達過程について、様々なことが分かる。数値評価を忌み嫌うのではなく、数値評価を使いこなすという発想に変えていくことが重要だろう。
 むしろ、保育にまつわる各種データの分析に、もっと投資するべきなのではないかと思われる。子どもの成長や発達を豊かにすることにつながる十分はリターンが得られるだろう。

 我々としては、保育の現場で発生する様々なデータを、ICTを用いて収集、分析し、実りある洞察(インサイト)を、保育士、保護者に還元していけるようなサービスを生み出していきたいと考えている。