見出し画像

皇位継承問題は、皇族方の負担軽減を一番に考えるのが肝要

はじめに

2004年の小泉政権時代から注目される議論。悠仁親王の誕生で下火になった時期もあるが、長年解決されない問題である。

戦後日本は「象徴天皇制」を取り、現憲法において天皇は「日本国民統合の象徴」である。国内にあっては天皇が日本の歴史・伝統文化の継承者であり、国民の結束や日本国民が日本国民たらしめるアイデンティティの一部として機能し、国外にあっては世界にも稀な王族の血筋であり、日本の代表・権威として世界との融和に貢献している存在だ。

そんな天皇、そして皇室は様々な時代の趨勢により存亡の危機に立たされている。

1. 皇位継承問題の問題点

この問題の中心は言うまでもなく、皇位継承権を持つ男系子孫が実質悠仁親王ただ一人であるということだ。

現状の解決策として、皇位継承権の拡大を図り、女性天皇・女系天皇の擁立によって解決するか、男系血統を継ぐ旧宮家を皇籍復帰させるかが議論の中心である。

しかし、仮に女系天皇を擁立した場合、天皇制が始まって以来初めて女系に皇位が移ることになり、歴史的観点から1300年続いた王朝の断絶と王朝交代が起きることへの忌避感が伴う。一方、女性天皇はこれまでにも前例があるが、仮に愛子内親王が皇位継承者となったとしても、次世代の皇位継承者が2人になっただけで、「安定的な皇位継承」というこの問題の根本解決には繋がらない。

かといって、半世紀以上前に皇籍を離脱した旧宮家の子孫を皇籍復帰させ、その子孫が皇位を継承した場合、果たして現在のような「日本国民統合の象徴」としての尊敬を維持することが出来るか、という懸念が残るというところで議論は膠着状態にある。

2. 「安定的な皇位継承」とは何か

皇位継承問題は、かつてより世間一般に認知されているが、「女性天皇」「女系天皇」の問題にフォーカスされることが多い。ジェンダーフリーが叫ばれる現代の潮流と、ただでさえ権力が男性に集中しやすい旧態依然とした日本社会への反発、また、小室圭氏問題等からの秋篠宮家への不信感などから「愛子天皇待望論」と結びつき、女性天皇を容認する流れが国民の大半を占めているのが現状だろう。

しかし、1. でも取り上げた通り、女性天皇にしたところで皇位継承者の頭数が僅かに増えるばかりである。愛子内親王と悠仁親王の年齢は5歳差であり、どちらが天皇に即位しても、その次の世代は彼らの子が誕生するかにかかってくると言う意味で、「安定的な皇位継承」には至らない。

これは美智子上皇后や雅子皇后が受けてきたプレッシャー以上のプレッシャーを、彼らとその伴侶が背負うことにもなる。

かつては生まれや家柄を「定め」として受け入れた時代もあっただろうが、家制度が崩壊して久しい現代を生きる彼らが、このプレッシャーを背負うのはあまりにも過酷であるし、明仁上皇の退位や眞子内親王の結婚など、皇族方の意思を政府が尊重する風潮と相俟って、愛子内親王・悠仁親王が重圧に負けて皇位継承を拒否してしまう可能性が出てくるかもしれない。

つまり「安定的な皇位継承」は、ただでさえ、「象徴」として様々な思いを強いている皇族方の肉体的・精神的な様々の負担を軽減するのが最も肝要で、天皇を拝し「象徴天皇制」を維持したいのであれば、時代の潮流に合わせて女性を天皇にすることや、その時々の宮家への印象などでその制度を決めるものではないのである。

3. 「安定的な皇位継承」の解は一つしかない

「安定的な皇位継承」という観点に立った場合、その解は実質一つしかない。それは旧宮家の全部ないし一部を皇籍復帰させ、皇位継承権を持つ頭数を増やすことである。

なぜなら、現行の皇族方で解決を図る場合、女性天皇の容認だけでは先に述べた通り「安定的な皇位継承」にはならない以上、女系天皇を容認せざるを得ず、これは天皇家に歴史的価値を見出している一部の人間から必ず反発にあう。

歴史を紐解けば天皇家にもかつて南北朝に分裂した時代があり、その正統性を巡っての議論が600年近く断続的に続いた過去がある。仮に今愛子内親王を天皇とし、子宝にも恵まれ、その子が皇位を継承した場合、愛子天皇を頂点とする女系天皇が誕生する。しかし、悠仁親王も同時代に存在するし、彼の子も順調に増えるかもしれない。

そうなったとき、女系天皇は正統かという議論が必ず起こる。

現在のネット社会を見ていれば、この議論が巻き起こるのは想像に難くないし、仮に現在のようなとりあえずは平和な平時においては取り沙汰されなくても、戦国武将が朝廷を権威付けに利用しようとしたり、明治新政府が天皇を国家統合の旗印に掲げたように、日本国が未曽有の国難に遭った際に、権威は多かれ少なかれ利用され、その際に必ず正統性が付いて回る。

直近では先の大戦で本土決戦を前に東京を離れようとしない昭和天皇を廃絶して明仁皇太子(現・上皇)を擁立しようとする動きがあった例もある。

極端な話、愛子天皇系あるいは悠仁天皇系を擁立して国家を二分して新日本国を立ち上げるという政治利用も可能になるのである。

現代人の感覚で、万世一系も眉唾だし、男が家を継ぐ考えも古い、世継ぎに困るなら女も数に入れれば良いと考えるのは簡単だが、その一時的な感情を「国民の総意」としてしまうことに、もっと根本的な日本国の精神的な分断・瓦解、維持しようとした天皇家の廃絶を招くリスクがあることは歴史が語っているのである。

また、現行の皇族方では結局数が少なく、世継ぎや公務の重圧に晒される状態が解決しないのは、先に述べた通りである。

その点、旧宮家は男系を継ぐ血統の子孫であり、血は薄くともその正統性に疑念は無い。小室圭氏の問題でも感じたように、その行動が不信感を募らせるような人物を皇族の末席に迎えるより、よっぽど納得感がある。

勿論、皇籍復帰の際は旧宮家の意思を確認する必要はあるが、旧宮家の関係者は、これまで皇位継承について意見を述べていない一方で、皇籍復帰を拒否しているわけでも無い。長年に渡って皇室を守ってきた家系だけに、全くの一般国民よりはいざと言う時の皇籍復帰の覚悟があるのではないかと推察される。

懸念があるとすれば、皇籍離脱した当時の宮家当主は高齢か死没しているため、一般国民として育った跡取りが皇籍復帰して、国民が歓迎するかという点である。

しかし、今は反発があったとしても、皇籍復帰した宮家の子孫が天皇に即位する可能性があるのは、悠仁親王の次の世代であり、仮に今上天皇、悠仁親王がそれぞれ80歳まで在位した場合、約65年後のことになる。それまでに皇籍復帰した旧宮家が国民の信頼を得ることは不可能ではないように思う。

また、旧宮家をどれだけ皇籍復帰させるかは議論が必要だが、数が多ければ、世継ぎを産むというプレッシャーはその数だけ軽減するし、当然、構成員が増えれば一人当たりの公務の量も軽減される。

もし旧宮家を維持するのに税金がかかると言うのであれば、諸外国の王族のように宮家の私有財産を認め、宮家自身が生活費を稼げば良いわけだし、実質、旧宮家の方々は現在進行形で何らかの職務に従事して生活費を稼いでいるのだから、無理な話ではないはずだ。

4. 日本と人類の遺産として

最近では眞子内親王の件や一般国民の生活が豊かにならないことから、税金でノウノウと暮らしている天皇や皇族がどこまで必要かと思う国民も増えているように思う。

しかし、法隆寺が世界最古の木造建築として世界遺産登録されているように、移り変わりの大きい悠久の時の流れの中で、日本古来の歴史・伝統文化を継承し、世界最長とされる血統を維持している王族は、存続・維持することに価値がある。

日本人は地政学的なものなのか、遺伝的なものなのか、外来文化や新しいものを誉めそやし、旧来の文化伝統を簡単に破棄する傾向がある。また、議論を嫌い、時流や風潮に流されやすい傾向もある。

だからこそ、有史以来1300年続いた皇統をあっさり断絶させてはいけないし、日本と人類の遺産を守る意識を持って、この問題を考えるべきではないだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?