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私論③~慣性不況~

 消費行動には慣性が働きます。松原隆一郎氏が言うように、経済学は消費を正面から対象にしてこなかったのはホントです。(『消費資本主義のゆくえ』、ちくま新書、2000年)セー法則を都合よく是認して、つくったものは売れる、として済ませた。だから今回のように消費が強制的に止まってしまうと、ただうろたえるだけで、どうしてよいかわからない。安易なポピュリズムに与党ともども野党まで飲み込まれてしまうのです。
 私達は、生活の中で様々な慣性を持ち、それに従っています。特に理由はないけれど、ある定型パターンに沿って行動する。消費は生活の主要部分で楽しみも伴うのです。それが慣性の上に展開する。慣性は、特に理由もないだけに変化しにくい。それが変わるのは大きな外生ショックのある時です。
コロナ禍は人々の行動を物理的に制限したので、まず、影響が出たのは消費行動。そのあおりをまともに受けたのは消費関連産業です。変化の方向は私論②で述べたように、不要不急への傾斜です。その分、文化、娯楽、贅沢、特殊な分野は敬遠されています。流行は、今はアレ、少し未来はコレ、というように動く。それは、意図的に生み出すものだし、次は何?の予想も立ちます。流行であれば人間は簡単に対応しますが、消費の基本ベクトルの変化については時間がかかります。それを一気にやってしまうのが外生ショックです。それが長く続くと、今度はそれに慣れてしまう。新しい慣性ができる。そうすると、元に戻るということはない。そして問題が生じます。既に述べたように、不要不急の消費分野はとても狭いのです。だから、需要の総対量は縮んでしまう。慣性ですから縮んだままになって固定化する可能性がある。これは特殊な、しかもかなり厄介な消費不況です。
 見方を変えます。私論①で、凍傷が最も激しいのは外被層であると言いました。ここには、末端の消費産業が多い。小売業、飲食店、その他サービス業などです。これらは、例外はあるものの家業が多く高利潤ではありません。そうであれば蓄積・予備金も多くは持ってない。生業ですから、収入・収益のほとんどは生活費になり大金は持っていません。(もちろん、例外はあります。)外皮層の凍傷は長く続く心配がある。だから、まずここに焦点を当てて対策を打つのが妥当です。その際のスローガンは迅速・無差別です。迅速は当然、早くしないと慣性は強まり定着してしまう。元に戻る可能性は時間の経過とともに少なくなるからです。
 予算制約を考えれば政策対象を絞り込むのが原則ですが、それには時間がかかり迅速原則に反するので、今回はできません。ナイチンゲールが戦場で敵・味方の区分なく傷ついた兵士を助けたように無差別に行動すべきです。
迅速・無差別で、事業体の消滅を止め、雇用を守る。自営業・小経営者の多くは厳しい環境にあるので、自分の代で店を閉めるかどうか迷っている人も多い。でも、やめるには決断も勇気も要る。従業員に、もう会社は辞めるから、と言い渡すのは辛い。コロナ禍が迷っている人々の背中を悪い意味で押してしまう。それを止めないと雪崩現象が起きます。どうせ消滅してもいい小経営、という冷徹が見方もあるでしょうが、雪崩現象になったら、この領域から大量失業が発生します。しかし、無差別対策は、それはそれで重大な副作用をもたらしますが、それは後に述べます。お店の家賃補助も、後に述べる懸念はありますが、当面の有効性はあるでしょう。
 “元には戻らない”その最大の理由は慣性ですが、その実例は、これから山のように出現します。投資家ウォーレン・バフェットは、「航空会社の株式はすべて売却した」そうです。彼が、航空機の乗客数が元には戻らないと判断したからだそうです。でも絶対に元に戻らないかというと、そうでもない。居酒屋に行かなくなった人々を戻すには居酒屋の側からの努力が必要です。それは航空業、ホテル業、観光業、皆同じことです。黙っていれば慣性が勝つでしょう。
 地方経済も多くは外被層にあります。地方創生という目標は忘れられたので、逆風です。地方の駅前商店街をみると、消費行動の変化についていけず、崩壊しかけています。それが今回の災害で一層ひどくなる。地方という住み場所は、日本資本主義にとって必要なのではなく、日本の社会にとって必要なのです。社会政策的視点から、日本人が安心して住める場所を作るという基本方向で、大きな政策を展開することが望まれます。それが日本の資本主義を守ることもあります。

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【所属機関】公益財団法人はまなす財団 理事長 【所属学会】日本中小企業学会/日本金融学会/日本証券経済学会 【研究課題】現代資本主義経済の歴史的位置/協同組合の現代的意義/協同組織金融機関の存在意義/協同組合と資本主義
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