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ノーサイド~栃木×松本の「場外戦」に思うこと~

5月23日(日)に開催されたサッカーJ2リーグ第15節
栃木SC対松本山雅FCの試合中に起こったラフプレーに起因する、出場選手のSNSでの投稿と、その後の両チームのクラブやサポーターを巻き込んだ「場外戦」について、第三者のクラブのサポーターの目線で思うことがあるのでペンを取る。なお、この騒動の直接の原因となったラフプレーを犯した選手やそれを受けた選手が試合後にSNSに投稿した行為についてももちろん、あの日ピッチ上で90分、勝利のために懸命に戦っていた両チームの選手、監督、審判団、チーム関係者を責める意図は一切ないことをあらかじめ記しておく。
すべてのサッカーファミリーにリスペクトを込めて。

問題となったのは前半20分、栃木MF菊池のフリーキックからの松本の守備機会で松本DF橋本のクリアが中途半端になりルーズになったボールに詰めに行った栃木MF山本廉とキャッチングに行った松本GK村山が交錯。スローで見てみるとキャッチングが早く、その後に山本の振り上げた右足が村山の後頭部を蹴り上げ、村山はその場で悶絶。このプレーに対して主審の大坪が山本に対してイエローカードを提示。しかし村山はレッドカードではないかと審判に詰め寄るも判定は変わらなかった。

このプレーに関して村山は試合後自身のインスタグラム
 https://www.instagram.com/tomohiko_murayama/?hl=ja に当該のプレーについて明確なラフプレーだと投稿し、それが栃木の田坂監督の指示によるプレーだったと表記したことから両サポーターを中心にSNS上で「場外戦」が勃発。翌々日の火曜日両クラブは声明文を発表。田坂監督が指示したという事実は一切なく、選手のプレーも意図的なものではないということ。栃木のクラブ・選手・監督ならびにその家族・関係者に対し事実に基づかない誹謗中傷が発生していることを公表している。

当該のプレーに関して故意によるものなのか、それが選手の独断なのかや監督の指示によるものなのかという点についての考察やプレーの是非については他の方に任せたい。タフなプレー、球際の激しさとラフプレーの線引きは非常に難しく、審判それぞれのさじ加減によって判定が左右されるケースが多分にあるからである。
今回は出場選手がSNSで投稿したことをきっかけにピッチ内での出来事がピッチ外に持ち出され、両チームで波紋を呼んだ。クラブ間で対処されないことに対して納得がいかなかった村山選手自身がそうせざるを得なかった面もおそらくあるのではないかと思う。村山選手自身は問題提起のつもりでSNSに投稿したのだと思うが、対戦相手への非難も含まれていたため、それが読み手にはメインだと受け取られた結果、村山選手の意図しない部分で騒動が広がってしまい、その後、村山選手は謝罪の投稿をしている。

ピッチ内で起きた出来事は必ずピッチの中で決着が付けられるべきだと私は思う。ピッチ内には必ず審判が居て、第三者の目があり裁く人がいる。ルールがある。終わりがある。しかし、ピッチから一歩外に出て、ソーシャルメディアの場にそれを持ち込んでしまえば最後。「人」対「群衆という名の暴力装置」というアンフェアで審判不在、ルール無用の野良試合が始まってしまう。

話は変わるが、日本ラグビーには「ノーサイド」という言葉がある。
体重100キロを超える巨漢たちがボールを追って、走り、全力で体と体でぶつかり合う。時には感情をむき出しにして掴み合いになることもしばしばあるが、試合終了の笛と共にそれまで憎しみ合うほどにまで激しくぶつかり合っていた男たちが互いの健闘をたたえ合う、日本独自のものと言われているが2019年のワールドカップで世界に広まった文化だ。そこにはピッチ上で起こったことはピッチ上で決着をつけ、ピッチの中に置いて帰り禍根を後に残さないという、礼に始まり礼に終わる武道に近いすがすがしさに近いものを感じ取れる。

話をサッカーに戻すと、サッカーは裁く審判が時にミスをしたり、若く未熟で相手を怪我させることなく止めたりボールを奪ったりする技量がない選手が相手にいることもある。そういった理不尽からくるフラストレーションを飼いならさないといけない場面によく出くわす、不完全で、不条理で、教科書通りになんか絶対いかない。だからこそサッカーは面白いし愛されるんだと思う。時にはこうやってやり場のない憎悪の感情をため込んでしまうこともあって、それをスタジアムの外に持ち出さないことは理想論、綺麗事だと言われるかもしれない。でも、ソーシャルメディアには礼もなければ精神もなく、審判の目も届かない。そんな場にピッチの上で起こったことを持ち出すことがいかに悪手か。

ピッチ上で起きたことはピッチ上で決着させる。「ノーサイド」の考え、精神がサッカーでも大原則になってほしい。そうなれば「人」対「群衆」の勝者のいない、救われる者の居ない「世界で一番愚かな試合」のキックオフの笛は永遠に鳴らされずに済むはずだ。

栃木SC、そして松本山雅FCの両クラブの今後の関係に幸多からんことを願ってペンを置く。

「ノーサイド。」


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