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体育とスポーツの違いを考える

今更なネタですが、体育協会がスポーツ協会に名称を変えました。

個人的な第一印象は、とても良いことだな、と。

子供の運動離れや体力低下、学校体育の問題点など肌で感じていましたので、これが一つの改革のきっかけになれば良い。そんな風に感じていました。

しかし学校教育やスポーツ関係者の中には、この変更に懐疑的な意見を持つ人も少なくありません。

それが何故なのか、耳を傾けてみると「そもそも学校体育の目的、定義とスポーツのそれは違う」と。

なるほど。

これはスポーツ業界の人間として一から学ぶ必要があるなと感じ、自分なりの考えがまとまりましたので記事にしてみました。

Ⅰ:体育とは何なのか

まずは体育の定義です。

『日本における学校体育』日本では学校における授業の教科または科目の1つとなっている。保健の分野・科目と一緒にして保健体育とされることもあり、学校の教科としては、小学校では「体育」、中学校では「保健体育」、高等学校では普通教育に関する教科(普通教科)として「保健体育」が、専門教育に関する教科(専門教科)として「体育」が存在している。保健では性教育や健康、環境、福祉、家族に関する教育が行なわれる。おおまかな教育目標は、各学校種ごとに学習指導要領で定められている。

出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』体育 より

そして小学校体育の詳細。

長いので「目標」の部分だけ読んでいただいても話は通じると思います。

目標)学習指導要綱では「心と体を一体としてとらえ、適切な運動の経験と健康・安全についての理解を通して、生涯にわたって運動に親しむ資質や能力の基礎を育てるとともに健康の保持増進と体力の向上を図り、楽しく明るい生活を営む態度を育てる。」と規定されている。学年目標は低学年・中学年・高学年の3段階に分けられている。低学年ではルールの遵守や協調性を重視した内容となっており、以後の活動の根幹を成す。中学年から「保健」の単元が加わり、座学による知識の習得が求められる。高学年には記録への挑戦が求められている。
内容)体育の副読本には多数の競技種目が紹介されているが、学習指導要領で必修と定めている種目は意外に少ない。あえて種目を明確にしないことで、学級の実態に応じた場の工夫やローカルルールの設定が可能となる。
低学年)体つくり運動、手軽な運動や律動的な運動、多様な動きをつくる運動、器械・器具を使っての運動遊び、固定器具を使って登り下り、懸垂移行、渡り歩きや跳び下り、マットを使って色々な方向へ転がり手で支えての体の保持や回転、鉄棒を使って支持しての上がり下り・ぶら下がりや易しい回転、跳び箱を使って跳び乗りや跳び下り・手を着いてのまたぎ乗りや跳び乗り、走・跳の運動遊び、水遊び、ボールゲーム、鬼遊び、表現リズム遊び。これらの内、体つくり運動は2年間に渡って履修し、他項目は学校によって1年生・2年生のどちらかまたは2年間にわたって履修する。
中学年)体つくり運動、手軽な運動や律動的な運動、多様な動きをつくる運動、器械運動、マット運動、鉄棒運動、走・跳の運動、かけっこ・リレー、
小型ハードル走、走幅跳、走高跳、浮く・泳ぐ運動、ゲーム(競技)、表現運動、リズムダンス,保健。これらの内、体つくり運動と保健は2年間に渡って履修し、他項目は学校によって3年生・4年生のどちらかまたは2年間にわたって履修する。
高学年)体つくり運動、手軽な運動や律動的な運動、体の柔らかさ及び巧みな動きを高めるための運動と力強い動き及び動きを持続する能力を高めるための運動、器械運動、鉄棒運動、跳び箱運動、陸上運動、水泳、ボール運動(競技)、表現運動、学校によってはリズムダンスも履修する、保健。これらの内、体つくり運動と保健は2年間に渡って履修し、他項目は学校によって5年生・6年生のどちらかまたは2年間にわたって履修する。

出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』体育 より

こうして見ると、体育とはスポーツが本来持つ「楽しさ」とは直接的には繋がっておらず、より「身体的な知識や操作法を学ぶ学業」であり、スポーツの中の限定された一部分であることが分かります。

では何故、日本体育協会は名称をスポーツ協会に変更したのでしょうか?

Ⅱ:体育授業が抱える問題点

ここからは私の経験を基にした自論です。
スポーツ協会の正式なコメントはこちら

今まで何度か学校体育の現場を見る機会がありました。

大きな問題は、マニュアルやカリキュラムがあるとは思えない俗人的な授業内容です。

先生が見学女子と一緒にサッカーの試合を眺め続けるだけの体育授業(チャイムが鳴るまで先生動かず)

2人ずつ100m走を何度か繰り返すだけの体育授業(45分で1人3回程度)

数名の子が活躍し、ほとんどの子が外野で消極的なドッヂボール

私はプロのスポーツトレーナーではありませんが、運動能力とは試技回数を重ねながら動きを調整し、より速く、より強く、より正確に身体を動かす方法を体で覚えていくものであることは理解しているつもりです。

(もっと学術的な言い方があると思いますが・・・)

体育教諭の免許を持っている教員であれば違うのかもしれませんが、「小学校の体育授業は担任の先生が授業を行う」ため、ほとんどの場合は体育を専門としていない先生が担当します。

上記のような内容の授業であれば、鬼ごっこや運動量を要する楽しい遊びで積極的に身体を動かしたほうが運動能力は上がります。

競技種目も、チーム分けやルールの微調整でいくらでも運動量を確保し、積極性を促すことができるのです。

思い通りの身体操作ができているか・できていないか(競技のルールや特性を理解できているか・できていないか)で評価するのは学校授業のスキーム上、仕方のない部分ではあります。なので記録や試技、試合の結果で授業採点することは構いません。

しかし逆に、だからこそ習得させる(向上させる)ための授業内容になっていないことが大きな課題と感じています。

できる子は楽しいが、できない子は楽しくない

団体競技になると、足を引っ張るとできる子に怒られる

これが子供のスポーツ離れ、結果としての体力低下に拍車をかけていることは言うまでもありません。


Ⅲ:社会が求めているのは体育よりスポーツ

外遊びが減ることで、体育の授業でしか競技スポーツに触れない子が急増しています。

身体操作や競技知識の習得を促し評価することだけではなく、運動(スポーツ)活動の楽しさを伝えることを主目的とした体育に変化する必要があります。


国語や算数は楽しさを教える場ではない。何故、体育だけ?

それはおかしいのではないか?


そうでしょうか。

国語や算数は社会生活において切り離すことができないため、日常生活の中で応用や反復の機会があります。言い方を変えれば、逃げることはできないのです。
(そして国語や算数が好きな先生は、楽しく学べる環境を作るのも上手です)

歴史や音楽は逃げることができますが、知識が無くても健康的な社会生活を脅かすものではありません。

しかし運動は小学校体育や中学の部活などをきっかけに「運動が嫌い」と苦手意識を持てば、外遊びの少ないこの時代、運動やスポーツに触れずに生活することができてしまいます。

先生も多忙すぎるため、運動が苦手な子に個別対応で声掛けや工夫をすることが困難です。(九九や識字に課題がある子が優先で体育まで対応しきれないし、そもそも運動を教えるのが苦手な先生が多い)

運動嫌いのその先には、将来の健康的な生活を脅かすリスクがあるのに・・・

だからこそ体育(運動)は、学校教育において「普及」の役割を担わないといけないと思っています。

指導要領云々の前に、社会が体育に求めていることが「運動やスポーツに興味関心を持ち、楽しんでくれる子になってほしい」と変化しているからです。

それが「体育をスポーツに」の、本当の意義・目的だと私は理解しています。

Ⅳ:生涯健康に繋がる体育授業へ

今回の記事は、完全に私の持論です。情報収集や関係者の方との議論を多少重ねましたが、まだまだ推測の範疇です。

しかしそれなりの確信と、そこに対する使命感も持っています。

それは、

やはりスポーツは社会の問題を解決できるコンテンツだ

ということ。

「心と体を一体としてとらえ、適切な運動の経験と健康・安全についての理解を通して、生涯にわたって運動に親しむ資質や能力の基礎を育てるとともに健康の保持増進と体力の向上を図り、楽しく明るい生活を営む態度を育てる。」

この学校体育の指導要領は、正にスポーツ活動によって実現できることです。

もちろん学校教育において「楽しく遊ぶだけ」では授業にならないかもしれません。
運動の知識や技能を習得させ、評価することが授業の目的でもあるからです。

恐らく名称変更に伴う議論のポイントは、学校体育の目的や指導要領はそのままに、トップが名称を変えてしまったことなのでしょう。

しかし、「卵が先か鶏が先か」という考え方もあります。
今回の件であれば方向性が先に示されたわけなので、現場がそれを実現できるように変化・成長すれば良い。

学校教育全体の見直しが叫ばれる昨今、体育授業から学校教育を変えることができるのではないか。技能や知識を評価することよりも、積極性や主体性を育てることに重きを置く学校教育を、「体育授業をスポーツ活動に変える」という手法で実現できるのではないか。

スポーツ社会事業で世の中を豊かにする」を掲げる私にとって、挑戦したくなってしまう仮説なのです。

また機会があれば、実際に体育授業を変革させた事例についても書きたいと思います。

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