23/07/30 【感想】棋士エッセイ集 将棋指しがひと息ついて

『棋士エッセイ集 将棋指しがひと息ついて』を読みました。
日本将棋連盟の発行する月刊誌「将棋世界」掲載されていたリレーエッセイをまとめていくつかの書き下ろしを加えたものです。

テーマは自由らしく、趣味や思い出などを書かれている方が多いです。以前に比べると発信のチャネルは増えたとはいえ、棋士の方の私的なエッセイなんていくらあってもいいですからね。素敵な読み物でした。

書き下ろしのものを除くと本誌掲載順に収録されているのですが、読んでいくと毎回ライターが変わっていながらもどこか「慣れていってる」感じがするのが興味深いところ。おそらく書くときにバックナンバーを参照されたり、あとは編集部の側にも経験値が蓄積されているのでしょう。自由テーマのエッセイならではの空気が感じられます。

福崎文吾先生の「わたしのゲーム遍歴」では、現在63歳の福崎先生が二十代の頃にクーラーを買うはずのお金でパソコンを買ってしまったことがきっかけでハマったというゲームの話が語られています。僕が生まれる前に出たようなゲームのタイトルが多数並んでいるのですが、一番驚いたのが最後。
「現在では、PS4のゲームが中心で楽しんでおり」…すごいなあ、バリバリ現役なんですね。

中村太地先生の「海外旅行の思い出」も良いエッセイでしたね! 竜王戦のパリ対局に記録係として同行したエピソードが特に良かったです。師匠でもある当時将棋連盟会長の故・米長邦雄先生のフランスでのエピソードがいかにも伝説的。

エッセイなので当然筆者が主語となる文章がほとんどなのですが、その中にあって山本博志先生の「実はスーツ好きなんです」は、名だたる棋士たちのスーツについて語られているのがファンとしてはとても美味しいものでした。
ところで、このエッセイで読むまで山本先生がnoteを書かれていることを知りませんでした。1,000日以上毎日noteを書く中でほぼ毎日トップページでサジェストを見ていましたし将棋ファンとして将棋の話題を書くこともしばしばあったのに…。

女流棋士・石本さくら先生の「さくら先生が教えてくれたこと」はプレッシャーの掛かる対局で精神的にパンクしてしまった後、さくらももこのエッセイに救われたという話なのですが、貴重なものを読めた嬉しさがありましたね。というのも、プロ棋士…特に男性棋士はあまり自分の弱っている(いた)ところを表に出さないんです。これは数十年に渡って顔見知り同士で競い続けるという特殊な環境に身をおいている勝負師であることから出てくる身のこなしなのでしょう。なのでこうした「弱った体験」とその自己分析を読めるのは貴重なことです。

佐藤慎一先生は良いエッセイを書かれる方なんですよ! 先生のブログは就活してたころに愛読して元気をもらっていました。そんな佐藤先生の「音楽と人」もやっぱり良いエッセイでしたね。エッセイに切り取られた時間の続きがどこかの空の下で広がっていたことを感じさせる、地に足の付いた「地続き」の文章です。

実は佐藤先生がこのブログ記事で書かれていた「洗濯機が可愛い」という話を、二次創作をするときにお借りしたことがあります。