見出し画像

好きな映画とカヴァー音楽

『Buena Vista Social Club』という映画が好きだ。そして、同名のバンドの音楽も好きだ。

初めてこの映画を観たとき、午飯を食べたばかりの私は不覚にも思い切り寝てしまったのだった。色彩の薄いライブの映像と、心地よい音楽が流れていたのは途切れ途切れに覚えているも、今考えても惜しいことをした。

その後わりとすぐに、大学の近くにあった「ビデオインアメリカ」という(皆、略して”アメリカ”と呼んでいた)レンタルビデオ屋さんで、キューバの音楽家達が主人公のこの映画を、再び目にした。少し前に『ベルリン・天使の詩』を観たばかりだったので、これもヴィム・ヴェンダースが監督したんだったと気になって、借りたところでまた寝てしまうのではという不安を抱えつつも、結局借りた。

店員さんは押しすぎてヘロヘロになったレジのボタンをポコポコ叩いて、私が払ったお金をレジに仕舞い、「返却は24日でーす」と言いながら、ちょっと破れているDVD袋を防犯ゲートの横から渡してくれた。

下宿に戻ってすぐ、DVDをPCに押し込んで観た。

一回観て、すぐにもう一度観た。
ピオレイヴァのパフォーマンスに圧倒され、コンパイセグンドの「セグンド」であるところの声を聴こうと耳を澄まして何回か戻した。エリアデスオチョアの”El Carretero”と線路のシーンも何回も戻って聴いた。
グアヒーロミラバールの艶やかなトランペットの音とトランペットを”よっ”と上げて礼を言う渋さ、何だかただならぬ雰囲気を醸し出すオマーラポルトゥオンドとイブラヒムフェレールのグルグルするところ。

何回か観るうちに話が掴めるようになり、登場人物の名前と顔と楽器を憶えた。アメリカツアーに行くことにどういう意味があったのか、やっと知った。そうしているうち、カット毎、曲毎に好きだったこの映画が、じわじわと一本の映画として好きになってきた。

せっかくなので、映画ではないが曲をここで2曲並べておこうと思う。聴いたことない人はもし良かったら。映画も配信サービスで観ることができるはずだ。

”Chan Chan”

”El Carretero”


YouTubeでBuena Vista Social Clubの音楽を聴いて歩いているうちに、officialではない、いわゆるカヴァーと云われる音楽動画も好きになってきた。

知らない人たちが歌っている知っている歌を聞くことがこんなに楽しいんだとは知らなくて、高校生の頃「おれは絶対にカラオケには行かない、なんで金払って素人の歌を聴かなくちゃあいけないんだ」と息巻いていた友人が、無理やりカラオケに引っ張り込まれた後、「皆とカラオケで歌うのがこんな楽しいものだとは知らなかった」と目をキラキラさせていたのをふと思い出した。

YouTubeには、聴き切れない量のカヴァーがアップされていて、内容はサムネイルからは若干しか読み取れないので、好みのものか知るためには一度再生してみるしかない。

カヴァーは、色々な人々が色々な状況で色々な解釈で、それでも一つの曲を奏でる連帯感が心地よく、知っている曲が思わぬアレンジで現れる楽しさはなかなかクセになる。
ここで、私が素敵だなと思っている”Chan Chan” のカヴァーをいくつか。もちろんYouTubeにはこれ以外にも数え切れない量の素晴らしい”Chan Chan”のカヴァーがあるし、当然であるが私はすべてを聴けていないので、悪しからず。


連帯とか、繋がるとか、団結とか、そういうのが私はあまり得意ではなかったけれど、しかし、カヴァーを聞いていると、国や地域、思想信条もきっと同じではない人たちがそれでも一つの歌を歌っている様に、「おれも混ぜてくれ!」と踊りたいような何かを感じるのである。