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【ネタバレあり】BL版・愛の不時着? 「분계선의 끝에서」を読んでみた

(トップ画像:peteranta

 初めましてorこんにちは、ライターの安宿緑と申します。
 
 編集や通訳、翻訳などしつつ半島や心理学関係の記事を執筆するなどしています。 
 最近日本でもじわじわと人気上昇中の韓国BLについて、せっかくなので6年ほど前に登録してずっと放置していたnoteに別途まとめることにしました。
 
 初投稿がこれかよ……という感じですが、よろしくお願いします。というか、投稿してみてわかりましたが、びっくりするほど操作性が悪い(きちんと反応しない等)サイトなので早々に撤退するかもしれませんが。
 
 さて、ついにBL界にも南北分断モノが登場してしまいました。  

「분계선의 끝에서(分界線の果てに)」피플앤스토리/著・DASKA)です。

先日、以下のように呟きましたが、そのレビューでございます。

https://twitter.com/yasgreen615/status/1381134885746700290?s=20

 北朝鮮攻×韓国受。設定ガバすぎる〜〜〜〜! 
 発行は2018年6月なので、「愛の不時着」よりも前。むしろ不時着のほうがこっちのオマージュじゃないんか? しかも、2018年4月27日の南北首脳会談からわずか約一ヶ月後というスピード感です。
 作者は、他にも多数のエモな作品を出しているDASKAソンセンニムであります。不時着の脚本家、もしかしてこれ読んだ? または別名義でこれ書いてる……? 
 いずれにしろ相当な挑戦作であることは間違いありません。

【主な登場人物】
受:ユ・セヨン(30) 
母親が韓国大統領候補(のちに当選)。ゲイであることが大統領選で不利にならないよう、母親の側近によりアメリカ留学の名目で厄介払いをされる。特定のパートナーがいたことがなく、性行為も3年ご無沙汰のセカンド童貞。韓国軍将校として7年間勤務経験あり。

攻:キム・ジョンヒョク(年齢不詳)
アメリカに滞在している謎の北朝鮮男性。敬語キャラ。奇しくも「愛の不時着」の主人公リ・ジョンヒョクと名が同じ。でもこっちのジョンヒョクのが先。身長約190㎝、イケメン、巨根。


 一言でいうと、この二人がアメリカで出会い、幾度の和合と分断を乗り越え、最終的に身も心も統一する話です。


 以下、独断によるレーティングと要点を。

設定:★★★★★(チャレンジングな題材をよく書ききった)
ストーリー:★★★☆☆(随所に陳腐さが否めなかった)
セックスシーン:★★★★☆(エロいしエモいが、巨根を強調しすぎるため星マイナス1)
受の可愛さ:★★★☆☆(情緒不安定ぶりが気になった)
攻のかっこよさ:★★★☆☆(言葉責めがややうるさい。喋らなければ良い男)

・韓国BLにありがちなパワーワード頻出
・しつこいほどに続く、攻の陰茎描写
・SEX中も北朝鮮の言い回しで言葉責めをする攻
・南北分断の現実もしっかり押さえている
・作者の悪ノリが過ぎる一方、分断以外にも重要な問題提起を行っている
・執着攻、強攻、絶倫攻・純情受、端正受
・韓国ネキからは半笑いの高評価
といったところですかね。


 NY近代美術館(MoMA)でぶつかったことがきっかけで出会った二人はすぐに本能的に惹かれ合い、互いの素性を知らぬままその日のうちにベッドの上で<統一>します。 
 同じ民族同士、統一に理由はいらねえ! ということの暗喩でしょうか?

 ジョンヒョクはセックスが久しぶりであるというセヨンの体を、優しく開かせていきます。 セヨンの渇きを、紳士的でありながらも有無を言わさず満たしていくのです。



・攻めの陰茎を武器に喩える描写がしつこい


 ジョンヒョクのリードにすっかり蕩け切ったセヨンですが、彼の陰茎の巨大さを見て我に返ります。その描写がしつこい! 

「巨大な根っこ……いや、凶器を目の前にしているという直感で全身が戰慄した」
「病院送りになるかもしれない」
「東洋人の平均値をあっさりと飛び越える直径」
「常識的に、道義的に、解剖学的に、人間がこんなものをぶらさげて良いものか」
「KM181、60mm迫撃砲よりも大きくはなかった」が、「フランス製51mm軽迫撃砲よりは太かった」



※参考までに51mm迫撃砲がこちら


 そんな迫撃砲をセヨンのアナルにセットしたジョンヒョクは

「それでは行きます」

 かたくなに敬語を崩さない!

 巨根な上に強大すぎる精力の持ち主であるジョンヒョクは「あなたが嫌だと叫んでも最後までいきます」「まさかこの一回で終わると思いましたか?」などとまたしても敬語を崩さず、セヨンを責めに責め尽くします。

 そしてめくるめく情事の後、目を覚ましたセヨンの視界に入ったのは、北朝鮮の高級幹部が持つ「白頭山拳銃」、ことチェコ製拳銃CZ75。 
 一方のジョンヒョクは韓国大統領である母親と一緒にうつるセヨンの写真を見て警戒心をあらわにし、互いの出自に気づいた二人は、言い争いの末に別れます。 

 その後、セヨンの警護を務めるデニーの口からジョンヒョクの真実が明かされ、セヨンはショックを受けます。 
 しかし、二人はすでにどうしようもなく惹かれあっていたのです。


・韓国BLにありがちなパワーワードの頻出


 それからしばらくして、傷心のセヨンの前にジョンヒョクが現れ、二人は再び言い合いになります。

 北朝鮮の罵倒語の言い回しの豊富さがしばしば話題になりますが、ジョンヒョクも例にもれず口が非常に達者です。セックスシーンだけでなく、ほとんどのセリフが言葉責めといっても過言ではない。

ジョン「南朝鮮では墨汁を飲んだ人は皆、墨汁を耳の穴で飲んだようですね」

 朝鮮語で「墨汁を飲む」とは高学歴の人や知識人を表す際に使う言葉ですが、セヨンが呼びかけを無視し続けていることを揶揄してこのように言っています。

 煽るねー。

 実際に、社説などではなく日常の言い争いにおいても、北朝鮮の人の語気はキツいですね。南朝鮮とはまた違った、急所を確実に刺してくる感じ。これはちょっと文章では表現しにくいのですが……。

ジョン「真昼間から亀甲縛りでもしましたか?」

 でもさすがにこれは言わんだろ笑

ジョン「共和国のテポドンミサイル(※下半身)がいかに強力か味あわせてやったと言えば、皆が納得するでしょう」

 うっせえわ笑。

 
 セヨンのほうは、まるでAbemaTVでひろゆきに論破されちゃう人のように防戦一方。

そんで、ようやく繰り出す渾身の反論が

「僕をエロ同人みたいにめちゃくちゃにしようとしたんでしょ⁉️」

 ちょwww これ日本だとギャグの文脈で使うと思うのですが、おそらく韓国に直訳で輸出された結果、慣用句として認識されてしまっているのでしょう。正直、噴きました。

 そうやって言い争いつつも二人は、二回目の<統一>を果たします。 

 ジョンヒョクはドSな本性をもはや隠そうとせず、巨根に痛がるセヨンを「大袈裟だな」と切り捨て、「おやおやー? 南朝鮮の男は義理や道理がないのですね?」など意地の悪い言葉を連発しますがもうジョンヒョクにベタ惚れしているセヨンにとってはご褒美。憎まれ口を叩きつつも「悔しい! でも感じちゃう! ビクンビクン」状態です。 
 この愛憎っぷりも南北関係の暗喩のように見えてしまいますね。

・アメリカまで製麺機を取り寄せて作る平壌冷麺


 ジョンヒョクがセヨンに、製麺機と材料を北朝鮮から取り寄せて作った本場の冷麺をふるまう場面があります。

 北朝鮮といえば冷麺。北朝鮮が嫌いな人でも、冷麺を食べるためだけに訪朝しても惜しくないくらいの体験ができると断言できます(※日本政府は邦人の訪朝を控えるよう要請しています)。

 きっと、これまで食べていた冷麺は何だったのだ?と思うことでしょう。  

 麺の原料と組成も北朝鮮の気候でしか出せないものであり、キジ肉とキジの出汁を使っている点でも独特の旨味があります。

冷麺については拙記事でも取り上げているのでご参照下さい。

金正恩氏が板門店に製麺機を持ち込んでまでこだわった、平壌冷麺の味の秘密とは?

 そして冷麺を食った後、二人は激しく三回目の<統一>をします。 
 この恋が長く続かないことを知りながら……その後、過酷な運命が二人を襲います。

・北にとって最大級の不敬ネタ搭載 

 ネタバレになるため伏せますが、北にとって最大級の不敬ネタが盛り込まれています。北朝鮮は不時着よりも、こっちに抗議したほうが良くないですか? 
 作者、核ボタン押しちまったな。DASKA쌤は約一ヶ月前の南北首脳会談を一体、どんな目で見つめていたのでしょう……。
 でも何だかんだいって、私はこの作品嫌いじゃないです。機会があれば、ぜひ邦訳させていただきたいくらいであります。売れるかどうかは微妙ですが……。

・韓国ネキたちの反応は?

 さて韓国ネキたちの評点はどうでしょうか。まさか、これを最後まで噴き出さずに読めたとでも言うのでしょうか。RIDIBOOKS内の評点は5段階中4.1と悪くはないですが、さすがの韓国ネキたちもツッコミが追いつかなかったのか、半笑いの高評価が目立ちました。

(以下、抜粋&意訳)
「素材は良い」
「暇つぶしにはちょうどいい」
「BLを読んで世界平和が心配になったのは初めて」
「笑うことは健康に良いので星5つ」
「統一すべき理由が一つ増えた」
「ミサイル爆撃にたとえられる下半身描写」
「二人の夢の実現のために南北平和統一を切に願う自分がいた」

 ほか、「このテーマでここまで面白く書いた作家は天才」などと褒め称える声もあれば、

「ヒョンタ(萎えた)」(韓国語で賢者タイムを略してヒョンタと呼ぶ)
「途中でそっ閉じした」
「死ぬほどサムかった」
「素材は良いのに生かし切れていない」と酷評する声も。


きわめつきは

「読み進むたびに金正恩の顔が思い浮かんで集中できなかった。文在寅と金正恩のラブストーリーを見てるかのようだった」

 言ってやるなよそんなことーーーーーー!!!!

・南北の現状とLGBT、女性問題

 唯一、惜しいのは朝鮮半島のLGBT、女性問題にも切り込んでいるにも関わらず、ストーリーとキャラの強烈さによってかき消されてしまっている点でした。

    ところで第三国では南北の人同士が邂逅する場面も珍しくなく、留学先の同じ教室に北朝鮮と韓国の学生が並ぶことももちろんあります。 

 しかしご想像のとおり北朝鮮の学生は他の国籍の生徒との接触は制限されております。 ヨーロッパの大学院で南北の学生と同じクラスになり、現在デザイナーとして活躍中の友人(日本人)はこのように証言していました。

「韓国人学生は日本人にことあるごとに対抗意識を燃やしてきて悪印象だったが、北朝鮮の学生は素朴で好感が持てた。仲良くなりたかったが、彼らは誘っても必ず断るので交流を深められなかった」

 難しいですね。 
 欧州サッカーのクラブチームに南北の選手が同時に所属することもありますが、仲良くなりすぎて北の選手が帰国させられたという事例もあります。 スポーツの国際大会でも顔を合わせられるのは短い時間だけ。 いつまでこんなことが続くのでしょうか?   

 ちなみに同問題については拙著「韓国の若者」でも現地取材をもとにまとめておりますのでよろしければご参照下さい

スクリーンショット 2021-04-13 8.43.52

 そして、最も笑ったのが最終章からの部分です。特にエピローグは、さすがにもう笑わせてこねえだろうなと油断していたらやられました。


・ここで一休み。作品から学ぶ、韓国語プチ講座


무릎과 무릎사이에 거미줄을 치고 산 듯한 인생(「분계선 끝에서」50P)
(膝と膝の間に蜘蛛の巣を張ってきたような人生)

 これは、3年間どころか生まれてこのかたずっとSEXとは縁遠い人生を歩んできたセヨンが自身を表した言葉です。
 日本語でも「股間に蜘蛛の巣が張っている」という表現をしますね。


이녁
(相手への呼称。韓国語で相手を呼ぶ際に使う「자기」の古い言い回し。やや相手を下におくニュアンスもある)

現代韓国人はほぼ使わない言葉だが、セヨンはSEX中にこれをジョンヒョクに連呼され「北朝鮮の言い回し最高!」とビクンビクン感じてしまう。

 以下、ネタバレとなりますのでご注意ください。

・7000万人が唖然! 半島の中心で愛を叫ぶ


 すでに予想している方はいると思いますが、ジョンヒョクの正体は北朝鮮の最高指導者の異母弟でした。

 それが明らかになった後も、二人の愛は変わりませんでした。

 そんな矢先、ジョンヒョクの異母兄である金正恩氏が脳死状態となり、急遽北朝鮮に帰国することに。
 それを知らせにきたのは、なんと韓国の国情院。
 同じ民族同士、困った時は助け合いということで、ジョンヒョクは国情院の手引きでKFJ空港まで輸送されます。 
 また、同時にジョンヒョクは異母兄の代わりに最高指導者となることが確定。そうなると二人はもう一生会うことはできません。
 
 そこでセヨンは韓国に一時帰国し、南北会談を控えた母親に大統領警護隊に入れてもらえるよう直談判します。 
 しかし、そんな公私混同が通じるほど世間は甘くはありません。その上、二人の関係は当然のごとく母親にバレていました。 
 性的マイノリティが極めて生きづらい韓国から出してやったら、まさか金一族とハメて帰ってくるとは思わなかったでしょう。母親の困惑は察するに余りあります。 

 だがそこはさすがに大統領。すかさず息子を南北会談を有利に進めるため政治利用することを目論みます。  

 そして迎えた南北会談での衝撃シーン。 

 あんなにイケメンだったジョンヒョクが、金正恩氏とまったく同じ刈り上げヘアをし、人民服を着て現れます。 
 もう勘弁してほしい。腹筋が持たない。
 
 セヨンの母親のおかげで一応、間接的に再会が実現した二人ですが、会談中、ジョンヒョクを狙った凶弾をセヨンが庇い受け重傷を負います。

 そして、ジョンヒョクがセヨンを抱き抱えて「愛してるんだ馬鹿野郎!」などと叫ぶ映像が全世界に流れます。しかし、幸い無音だったため公になることはありませんでした。

・セックスの最中に謎の反日描写

 セヨンは一命を取りとめ、すったもんだの後、二人は正式にくっつきます(長いので省略)。 

 エピローグは、ようやく全てのしがらみから解放された二人が愛し合うシーンから始まります。

 そして駅弁スタイルでハメながら、ジョンヒョクがこう囁きます。

「今度、日本旅行にでも一緒に行きましょう。そこでは駅ごとに各地域の特産物で作った弁当を売るのですが

 私はここでもう、次に来る文章が120%予想できました。以下、案の定のセリフをご覧ください。

「この姿勢を駅弁と呼ぶらしいですよ、日本野郎どもは」

 今、駅弁トリビア必要? そして日本disも必要? 
 なぜネタに走る? 

 作者が意地でも綺麗に終わらせるつもりがないということだけはわかりました。

 ともあれ、朝鮮半島問題はもはや、こういうダイナミックな方法以外では解決できないという作者の切なる思いが伝わってくるようであります。最高指導者の親族同士が同性婚?をしておりますから、実質的にはハプスブルク家のようなもの。政略結婚で南北平和が保たれるのであればそれも一手でしょう。
 そんなことを力技で納得させられそうになる怪作、いや快作でした……。



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