心の旅

2023年10月18日 10時頃

旅に出た。

海の近くの松の木の下、Blankey Jet Cityを聴きながらこれを書いている。
初めての旅では、彼らの曲を聴くと決めていたのだ。いつのまにか。

すごくドキドキ、ワクワクしている。
とにかく気持ちがいい。
私は仕事を辞めたのだ。

海の匂いがする。
砂浜と水平線の真ん中辺りに船が小さく見える。あそこに人が乗っているなんて、なんか不思議。命のアイソレーションを感じる。

海辺でしばらく波を眺めていた。
手にした空のコーヒーカップが俺に話しかける。「ここにおいていかないでね!」

この街の砂浜は、ゴミが1つもなかった。
確かにここに置いていかれたら寂しい。
誰が掃除をしてくれているのだろう?
気分がいい。ありがとう。

尿意を催したので発つ。後を濁さず。

同日11時頃

海辺を出た少し先、
素敵な気配のする庭園を見つけたので寄り道。季節は変わり目、
庭園の紅葉たちはまだ殆ど寝ていて、
早起きなヤツがチラホラ色付き始めた辺り。

池泉を眺める親子を発見。
どこか幸せな雰囲気。
ときめきながらも、
他人を凝視するのは失礼なので通り過ぎる。

子供は池を指差し、無邪気に笑う。
母親はそんな我が子を愛おしそうに眺める。
声色だけで純粋だった。
思えば俺もあんなふうに愛されて育ってきた。帰ったら2人にお礼を言おう。

同日12時頃

最初の街を離れ、先へ進む。工業地帯に突入、空気が汚い。
嫌いな雰囲気だが、こういう場所がみんなの生活を支えている。
俺もその恩恵にあやかっている。
こういう場所を否定するのは自分勝手にも程がある。だが、嫌いだ。
この場所もそんな自分も...この話はつまらないから止そう。

工業地帯を抜け、山道に突入。空気が綺麗!
窓を全開にして走る。
音楽はボブディランの「風に吹かれて」
山頂はすっかり紅葉していた。
先の庭園ではみんな寝ていたが、太陽が近いと早起きなのだろう。

同日14時頃

山道を抜け始めた頃、カーナビにデカい池が映る。昔から水が好きな俺はそこで休息を取ることにした。どうやらこのデカい池は観光地らしく、遊覧船を待つ定年退職者と外国人観光客で溢れかえっていた。

モヤモヤする。もしあのまま働き続けていたら、俺はどうなっていただろう?約40年、訳もわからず縛られ続け、用が済んだらポイ。後に残るは、ご褒美だと言わんばかりの余生。
一体何に俺は操られているんだ?見えない敵に怒りが湧いてくる。

気が休まらないので人気のない所まで移動していると、小さなカフェを発見。様々なレトロアイテムでゴチャゴチャしていていい雰囲気だ。誰も来ないと思っているであろう店主は裏でくつろいでいる。何を注文しようか悩んでいる俺に気付いた店主が、近づいてきてこう言った。

「メニューにはないけど、マロンソフトクリームがオススメですよ」

じゃあなんでないんだよ...と思いつつもそちらを頂き、池を眺められる外のテラスで食べた。
静かだな、綺麗だな、秋の太陽が心地いい。
ちょうどウトウトし始めた頃、遊覧船の汽笛が響き始める。俺も次に進もう。

二つ目の山道、この山の景色が

とんでもなく綺麗だった

僕の語彙力では、とても表しきれないほど綺麗だった。できるだけ表す。
まず車で走り抜けるごとに、木漏れ日がキラキラ輝くんだ。
一瞬一瞬が違う景色。だけど、1つに感じた。
同じ一本の木でもついてる葉っぱが一枚一枚色が違う。だけど1つに感じる。
これって、真理じゃないかな?人間もこれがいいんだよきっと。
本当に言葉で表しきれないのが悔しい!!
この景色は心にしまっておいて、この日記を鍵にしよう...

峠を下る途中、後ろからバイカーが迫る。
道を譲ると彼は親指を立てて走り去っていった。なぜか嬉しい。挨拶は他人のためにあるのか。これからはもう少し、声を張ろうかな...

麓に出る。相変わらず景色は綺麗で感動しっぱなし。チラホラ別荘が見える。かわいいログハウス達だ。俺も金持ちになったら、こんな所に住みたい!

山を抜けると、だだっ広いのどかな田舎町に出た。私も田舎出身だが、同じ日本でこうも景色が違うのかと軽いカルチャーショックを受けた。

一休みしようかと思ったが、目的地はもう一つ山の向こう。目的地はまだ内緒とする。

同日15時頃

最後の山に突入。どうやらこの山が一番長いらしい。
ここで私の愛車を紹介する。
ピンクのワゴンR「Rくん」である。(名前はいつも変わる)
彼は私の祖母が乗っていた車で、免許取得祝いにタダで貰った。
ガレージの肥やしになっており、僕が貰った時には走行距離も少なく新品同様だった。
が、若さ故の思い出の傷と、野ざらしで雨に洗車して貰うという塩対応のせいでワイルドに仕上がっている。
ところでなぜ「彼」なのかというと、この可愛い出立ちで実はマニュアル車なのである。
発進が得意で初速から40kmまでは誰よりも速い。しかしそこからは遅い。頑張り屋さんなのだ。

そして山が苦手だ。ビュンビュン追い越される。自慢話のために付け加えられた無駄な装飾と大袈裟な電子マフラー音を搭載したもはや「移動」するという目的を忘れ去られゲスな人間の欲望を満たすために生まれた哀れなマシンに後ろ指を指されながら俺たちは頑張る。
泣いてなんかない。品性が大事だ。

何が言いたいかというと、
煽り運転はクソである!!!

俺たちは山でなくてもよく煽り運転をされる。もし私の前に鹿が現れたらどうなるのかということすら彼らには理解できないらしい。
車の改造より、頭の改造をオススメする。

...そんなこんなで山道を進む。

同日17時頃

2時間ほど車を走らせ、ようやく目的地周辺に到着。この場所に近づくにつれ、あから様に雰囲気が変わる。なんて素敵な街だろう。まだ街に入っていないのにそう感じた。

時刻は夕暮れ時、明日に備え近くの公園で車中泊とする。
実はこの日の為、Rくんを車中泊仕様に改造していたのだ。100均グッズのみで取り付けた収納スペースと遮光カーテン。寝床には昔に買ったペンドルトンのブランケットを敷き詰め、Rくんは見違えるほど格が上がっていた。更に僕自身はキャンプ道具を買い揃え、事前にオートキャンプを経験するなどして準備は万全である。

車中泊は今回が初挑戦なのでワクワクだ。
道具を取り出し夕食の準備に移る。
メニューはコンビニで買ったウィスキー200mlとカルパスと炎のカップ飯。
ハッチバックを屋根代わりにコンクリートに座る。

夕暮れ時に暖色の電子ランタンを灯し、
栄養のズレた雑な食事を摂るのは心地よく、
まるで西部開拓時代に居る気分だった。

子供達が明日の約束を取り付け、家に帰っていく声が聞こえる。私もかつて聞いたセリフ。どこのガキも一緒だなとセンチメンタル。よし、寝よう。

2023年10月19日 6時頃

お年寄り同士の挨拶で目覚める。サムい。
事前準備の甲斐虚しく、眠りは浅かった。
若さ故、体力的にはどうってことないがこの先が思いやられる。改善が必要だ。

早々に荷物をまとめ、身なりを整える。フロントガラスが結露で凍りついている。
折角なので朝の公園を散歩することにしよう。
夜が明けたのでやっと景色が見える。改めてなんて素敵な街だろう。空気は澄んでいて奥の山までくっきり見える。

そう、ここは軽井沢。
ジョンレノンが愛した街。俺は彼を尊敬しているので聖地巡礼ってとこが今回の旅の目的だ。あるいは何かあやかれたら...なんて。
そんな邪な想いを乗せた傷心旅行ってとこだ。
何にご傷心なんだかね、全く。

まぁいい、とにかくこの街の第一印象は最高だ。事前に調べた彼にまつわるスポットを回り、今日は楽しむこととする。散歩は終了。ちょうどフロントガラスの結露は溶けている。コーヒーを買いに行こう。では、また。

同日19時頃

いやー楽しかった。

楽しすぎて日記を書くことなど忘れていた。
現在は帰りの道中。山奥の日帰り温泉の駐車場にてこれを書いている。
記憶が新鮮なうちに今日を振り返ろう。

コーヒーを購入後、観光地付近の駐車場に停め、繁華街を目指す。最初の目的地はフランスベーカリー。ジョンがよく通っていたとされるパン屋さんだ。

が、なんと定休日!

事前に調べぬ間抜けな僕。途方に暮れる。
仕方ないので向かいのパン屋さん、浅野屋にてバゲットサンドを購入。これを今日の行動食とする。ちなみに浅野屋もジョンが通っていたとかいなかったとか、、、

朝も早く人通りも少ない。しばらく散歩していると静かな木々に囲まれた別荘地帯に突入。空気が澄んでいて美しい。
次の目的地は万平ホテル。一歩一歩自然に癒されながら歩く。

万平ホテルに到着。
が、今は改装工事中で何も見えない。
これは事前に調べていた僕。間抜けではない。
まぁ見れてよかった、いつかまた泊まりに行こう。さてお次はオノヨーコの別荘探し!ノーヒントで見つけようと思う。

見事に迷った。

約二時間、別荘地帯を歩き回る。
その間、永遠と美しい景色が広がっていたが流石に疲れる。バゲットサンドの包み紙が手汗で濡れてきた。車に置いてきた水筒が恋しい。僕はついに諦め、インターネットの力を借りることにした。

見つけた。思わずそこかい!と声が漏れる。
何度か通りかかった道だった。諦めたのが悔しい!もう一歩だったのに!

オノヨーコはセンスがいい。
お金は誰よりもあったはずなのに、広い敷地にポツンと小さな別荘。彼女の心の豊かさが窺える。何故か非常にノスタルジックだ。この家で生まれた名曲もあるのかな。
しばらくそこに立ち尽くし、レノン一家の愛溢れる時間を妄想していた。

二時間近く歩いた美しい景色。
名残惜しいが、それより水が恋しいので一旦戻る。

車内で水分補給。水分を摂られるのを恐れ結局行動中食さなかったバゲットサンドを一口。
これが激うま。チーズ、ベーコン、レタス、ピリ辛マスタードとバゲットが絶妙にマッチ。食レポは苦手だがとにかくこれは美味い!フランスベーカリーが定休日で結果オーライ。結局私は運がいいのだ。

運がいいエピソードをもう一つ。
実は車に戻る途中、今日のランチを予定していた中華料理屋さん、榮林を偶然発見していた。開店までまだ時間がある。

ただ待つのも勿体無いので次の目的地、雲場池へ向かうことにする。だが、先の二時間の冒険で足が棒だ。もう一歩も歩きたくない。

そんな私にジャックポット。レンタルサイクルの看板が見える。これを使おう!

自転車なんて何年ぶりだろう。久しぶりすぎて両足スタンドの外し方すら忘れ、店員さんに解除してもらった。お恥ずかしい。だが、良い人でよかった。笑顔で忘れますよね〜なんて声をかけてくれた。そんなはずないのに。

自転車は最高の発明だ、少しの力でグングン前に進む!学生の頃は毎日乗っていたはずなのに何故気づかなかったのだろう。天気は最高。木陰の冷たい空気を切り裂いてどんどん進んでいく。最高に気持ちいい。

ジョンの名曲「How?」が頭の中で流れ出す。
そういえばジョンも軽井沢では自転車で移動していたそうだ。なるほどね、こりゃ気持ちいいよ。

雲場池に到着。日も登ってきたので観光客で溢れかえっている。とりあえず池を一周するが頭の中は自転車でいっぱい。足早に自転車に戻りまた漕ぎ出す。

一時間半くらい自転車を漕ぎまくり、満足。
そして返却。時刻はちょうど榮林の開店間際だ。ろくに計画もしてないのに思い通りにことが進む。ほらね!私は運がいい!本当に自転車は楽しかった。また絶対やろう。

榮林に入店。無表情の青年に席に案内される。同い年くらいだろうか?若しくは私より若いのにこんなにオシャレなお店で働いているなんて、、、無意識に自分と比較してしまう。

酸辣湯麺を注文。酸辣湯麺はこの店が元祖らしい。中華料理なのに日本発祥とはなんじゃそりゃだが事実だ。味はちょい辛、すっぱうま!
めちゃくちゃ美味い!疲れた体にお酢が染み渡る。体に優しい味!食レポはやはり難しい。

お会計、先ほどの青年だ。実は、榮林にはレノン一家が使用していたテーブルがあるらしくそれ目当てで来た。折角なので勇気を振り絞り、彼に打ち明ける。すると彼はニコッと笑いその席に案内してくれた。なんだ、いい奴じゃないか。

ニコニコと記念写真撮りましょうか?と言ってくれたが恥ずかしいので遠慮した。
だが、ジョンの名前を口にしてから一気に距離が縮まった気がする。
勝手に他人の名前で繋がるのは妙な気分だが嬉しい。
酸辣湯麺も美味しかったので、今度来た時には他のメニューも頼もう。

続いてはレノン一家御用達のカフェ、離山坊に向かう。繁華街からなかなか離れたところにあるのだが、ジョンは自転車で通っていたみたいだ。まぁ軽井沢は永遠に景色がいいので飽きないだろう。

離山坊に入店。ブルーベリージュースを注文し、ここでもジョンの名前を口にする。
すると店主が、彼がよく座っていた席に案内してくれた。
もう、数えきれない程の人が座っているだろうがそれでも嬉しい。そこから眺める中庭は静かで心が安らぐ、ジュースを掻き混ぜながら想いを馳せる...

あぁ大満足だ。帰ろう。

その時点で太陽はまだ真上に居たが、
大変満足した私は帰路につき、今に至る。

人生で初めての一人旅。こんなに美しいものになるとは思いもしなかった。
最高だ、本当に最高だ。いろいろ、悩みはあるが、今はいい。いや、しっかり、考えないとな。

これからどう生きよう?
何か変わる気がするし、何も変わらない気もする。うーん...

そうか、全ては自分次第という事か。結局、自分で変えなくちゃいけない。決断の先がどうなっても、自分で決断するのだ。後悔はない。と、思う。

まぁ、いい。今回は大成功だ!

日記はこれでおしまい!

明日、今日を噛み締め、ゆっくりうちに帰る。
おやすみ。


追伸
立ちションしに外に出たら満点の星空が広がっていた!全てはどうでもいいという事か。
楽しめるうちに楽しもう!

追追伸
楽しめるうちにってなんだ?
いつだって楽しんでいいはずだろバカ!!
そんなんだからダメなんだお前は、、、
クソクソクソクソクソ!!!

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