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向田邦子×久世光彦その壱 昭和57年~昭和62年

「向田邦子新春ドラマ」と銘打って年明け早々きっちり一作(昭和62年のみ三作)約20年間作り続けた久世光彦。放映開始日は昭和57年1月1日。向田邦子が台湾で客死したのが前年8月22日であるから、このシリーズの存在を彼女は知らない。

残された著作を参考に、数名の脚本家達が趣向を凝らし向田風味を散りばめて、
制作・脚本は久世が担当。タイトル字画は彼女が愛した中川一政。ナレーションは黒柳徹子。ノスタルジックなBGMは友情出演も兼ねて小林亜星が手がけた。

他にも森繁久彌、いしだあゆみ、風吹ジュンと、生前縁あった役者が入れ替わり登場し、加えて毎回母親役の加藤治子は「里子」(寺内貫太郎一家の役名)の名だけで通している。

けれど、このシリーズが花開くのは、昭和61年放映の「女の人差し指」における、田中裕子と小林薫の登場を待たねばならない。62年「麗子の足」、63年「男どき女どき」と続く、寺内小春脚本の珠玉の三作は、廃盤になってしまったこのドラマの円盤を「何かと替えても手に入れるべき」と言わしめるほど…艶と秘密と裏切りの魅惑が詰まっているのである。

ところで和風ウィリアム・モリス的な草花の意匠が可憐な写真のBOXは、第一弾(昭和57年〜62年)のプロダクト。カバー紙のざらつく高級感と共に、作り手の愛着の程が伺える。このBOXを私は後年求めたのだが、その時は既に久世自身も、
TBS独立後立ち上げた制作会社KANOXも、存在しなかった。Amazonで高値がついたシリーズ全巻を、私は数年かけて揃えていった。

向田邦子と久世光彦は戦友だったという。戦友とは自分亡き後、散らばって朽ちてしまいそうな趣味や拘りを、かくも長年かけて弔ってくれる者のことであろうか。私はその秘密を知りたくて、またこのシリーズを再見するのである。



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