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ごはんについて書くための習作16

休みの日。家族で公園や海へ行くとき「パンを買っていこう」と言うと、嫁に目的地近くの飲食店を探される。仕方なく、独りの昼ご飯だけは、と、今日も駅前のパン屋で買ったクルミパンとサンドイッチとクロワッサンを持って、暑い日差しに、椅子とサンシェードを持って飛び出すことにする。暑いし、危ないので、実際は飛び出したりはしない。
別にデザイナーだから、パン(とくに硬いパンを彼らは好む)が好きというわけではない。弁当と違って、手軽に持ち運べるからというくらいの理由だ。

午前中は、13時半からの打ち合わせに使う資料をMiroで書きつつ、前職のプロデューサーから「簡単な1ページのレイアウトをやってくれないか」という電話を受けた。受けたというか、かけ直したので電話代は私もちだ。wifiの屋根の下にいるのでzoomとかにしてほしい。会社を退職して一ヶ月、別に1ページの仕事なんて受けなくても(受けない方が)いいのだけど、「この仕事が社内のウェブデザイナーに振られる」と思うと、染みついた室長気質が、海沿いの椰子の木くらい伸びてきてしまった。

12時過ぎ、いつもの古いGAPのトートバッグにパンと椅子を入れて歩いている。湾の向こう、この前まで立ち入り禁止になっていた釣り公園近くの広場に釣りをしている人が見えた。久しぶりに向かう。パーソナルシェード付きの椅子でパンを食べてる時間よりも、向こう岸に行くために日に当たってる時間の方が長くなる可能性もあるが、行こうと思ってしまったので、ぐるりと何も日陰のない海沿いを歩いている。

広場の入り口付近、「一般車立ち入り禁止」という看板がある。横では警備員が寝ながら携帯をいじっている。とくに咎められないので、車じゃないからいいのか。見てないだけかもしれない。
父、母、長女、次女、三男。という構成の家族が釣りをしている近くで椅子とパンを出す。長女と次女がどちらが竿を持つかで喧嘩している。母は日傘を差している。他に釣りをしている人は周りにはいない。

パーソナルシェード付きの椅子は本当に涼しい。今日も太陽がエネルギーだということを感じている。サンドイッチがバッグの中で椅子に押されて、潰れてしまっていた。買うときには中身がよく見えなかったが、ゴボウのきんぴらだと言うことが分かるようになっている。
クルミパンだと思っていたパンにイチジクも入っていることに気づいた頃に、母と子供たちが暑さに耐えきれずか、車の方に行くのが見えた。残された父と竿が三本。大丈夫、私は一人でもそれくらいの本数の釣り竿を持って行くから。大丈夫。と、思う。
クルミイチジクパンをかじりながら見守るものの、釣れる気配無し。一人にされるんだったら、一人で夜明けから来れば良かった。

食べ終わって、椅子を片付けて、少し離れた位置から釣り道具を眺めつつ、仕事場に戻ろうとすると、車に戻っていた家族が戻ってきた。初島からのフェリーも戻ってきた。
さっきは入り口で寝て携帯をいじっていた警備員が起きていて、ここは一般の人は通行禁止だと注意される。一般車(者)か。左手、Twitterを開いていたスマホを持ち上げるような具合に手を上げ、そうなんですね、気をつけます、と謝った。

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