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複製の絵を描く 平井利和のイラストレーション

以下の文章は2022年11月11日から13日にかけてFabCafe Tokyo
で開催される展覧会「ARToVILLA MARKET」の会場に掲示されるレコメンドの文章です。
僕がレコメンドしたのはイラストレーター・平井利和さん。一般にイラストレーションとは複製物のことを指すので、1点モノの絵の場合「イラストレーションを展示する」という言い方はできないはずなのですが、日本の場合はそういう表現をしても、あまり疑問に思われません。でも平井さんは、そこに自分なり折り合いをつけています。その態度は広くイラストレーションについて考えるきっかけを提供できるかもしれないと思ったので、それについて書いた文章をここに公開します。


イラストレーターが絵を展示し、それを販売することについて私たちは特に疑問を感じることはないし、むしろそうした状況を楽しんでいる人々も大勢いる。しかしこうしたスタイルはアーティストも同様であるし、それは結果的にイラストレーターとアーティストの区別を分かりづらくしている。なぜこのようなことが起こっているかというと、それはイラストレーターたちを専門に扱うギャラリーが一定数あることや、イラストレーター自身もクライアントワークだけでは職業として成立しないという事情が関係している。

とはいえそのような説明だけでは、イラストレーターが絵を売ることについて現状を追認することにしかなっていないだろう。もちろんこのことに対する回答の出し方は各人それぞれであるのだが、平井利和の打ち出している回答は特に力強いものだといえる。なぜなら平井が描く太い描線で描かれたポートレートにはシルクスクリーンが用いられており、イラストレーションが複製物であるというアイデンティティを展示においても維持しているからである。それは複製とはいえ、シルクスクリーンという現代の印刷物では主流とはいえない技法を使っており、独特のテクスチャーとして作品に存在感を付与している。

平井は過去に公募「The Choise」に入選経験があり、雑誌『イラストレーション 213号』の入選者コメントにおいて「発達した印刷技術はさらにどこまでいって、またどこまで維持できるのでしょうか?」と問いかけている。平井の制作には、展示のための作品といえどもこうした印刷という複製技術に対する関心が反映されている。

イラストレーションはどのような技術を介して私たちの目に触れているのだろうか。それは時代を経るにつれどんどん変わっていく。現在では、印刷よりもスマートフォンなどの電子機器を通じてイラストレーションを目にする機会のほうが多いのかもしれない。しかし両者は物質的基盤も色の表現方法も異なっており、そこには隔たりが存在している。平井はそんな時代にあって、あえて「複製としての絵」を制作することで、イラストレーターとしての態度を表明しているのだ。

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