苦しい時の話。

一生苦しいままで死ぬのではないかと時々恐ろしくなる。

私の家庭は皆がうらやむほど愛情に溢れていた、と言ったら、本当にもなるし嘘にもなるような、そんな代物だった。私は嘘のほうを信じているから、ずっと苦しくて、ずっと足掻いているのだ。

私の両親は、私よりも神さまが優先だった。でもたぶん、神さまの次に私の事を優先してくれていたような気もする。けれど、両親の中の80%くらいが神様で、私は10%くらいなのだ。もっとややこしくすると、私の中にも神さま要素を存分に詰め込もうとしていたので、神さま80%、私10%、10%の私の中に6割の神さま要素と言ったところか。

でも愛情もお金もたくさんかけてくれたんだと思う。でも、でも、やっぱり愛情の裏にうっすら透けて見える神さまへの絶対的な何かが、愛情を偽物にしていたような気がしてならない。

父親は無口で高圧的で、父親の事を考えると必ず、幼稚園の時に登園拒否をした時にものすごく痛くお尻を叩かれた事を思い出す。それ以外の時は…?ご飯を食べる時は何かしらの文句を言い、夕飯後によく宗教関連の出版物を家族で読んでなんだか長ったらしく難しい講釈を垂れていた。私の事についてはあの登園拒否以来はあまり関わってこなかった気がする。私が父の日か何かで幼稚園で工作したハンガーを長いこと部屋に飾っていた。遊んだ記憶も無いわけではないが、本当にごくたまにだった気がする。こうやってぜんぶ本当に正しく正確に書こうとするとわけが分からなくなってしまうけど、父親とは時々仲良くなれたような気もすることがあったけど、そんな瞬間はすぐに消えてどこか重苦しいものが私と父の間に流れていた。

母親は、ヒステリックだった。いつも体調が悪いと言い、ソファで寝込んでいた。私が外の公園へ連れて行ってもらえた回数は多分他の家の子よりも圧倒的に少ない。さっきまで笑っていたはずなのに突然怒りだすのでいつも顔色を伺いながら話しかけたりちょっかいを出したりしていた。でも私には友達がいなかったので暇潰しにはそうするしか無かったのだ。そして病的なまでに心配症で、1人で公園に遊びに行くとか、そういう事を決して許さないので私は部屋の中で遊ぶほかなかった。そして薬を嫌う上にそれを私にまで押しつけるので私は風邪をひいても鼻水が滝のように出る状態のまま学校に行かなくてはならなくて恥ずかしかった。そもそも風邪薬をよく知らなかったので何故みんなは風邪をひいても鼻水が出ないのだろうかと不思議でならなかった。毎日習い事の楽器の練習をしないと怒鳴ってくるし、練習をしても少し間違っていたらまた何やら怒ってくる。私は演奏の事でとやかく言われると、ほかの事では大抵は我慢出来るはずなのに、これだけはどうしようも無くいらだちが募り、気がつくと涙が溢れてしまうのだ。私が泣いても、意気地無しとか、なんで教えて貰ってるのに感謝しないのかとか、いろいろ言われていっそう涙が溢れてしまう。本当は泣きたくない。もっとちゃんと練習して、ぜんぶ穏便に済ませてしまって、えらいねって褒められて、優等生になりたいのに。歯を食いしばっても何をしても涙と鼻水が止まらない。やっぱり私ってダメな人間なんだなぁと子供心に思う。自分でも何故なのか分からない。今でも母親に演奏の事で指摘されるととんでもなくイライラしてしまうから、もう仕方の無い事だと思っている。

こんな両親でも、きちんと三食のご飯は与えてくれたし、欲しい服や本も買ってもらえた。いい子だねとか、可愛いね、とかはあんまり言ってもらえなかったけど、テストで100点をとればそれなりに褒めてもらえた。でもあまり嬉しくなかった。それが当たり前でなければいけない事で、私はそれを守っているだけのような気がしていた。90点台をとると母親にどうしてお前は詰めが甘いんだと叱られる。本は買ってもらえたけど、みんなが持っているような可愛い雑誌は買ってもらえなかった。こんなものくだらないって言われたから、そうなんだろうな、と思った。考える事をやめた。徹底的に周りの同級生の趣味を見下す事しかできなかった。口には出さなかった。宗教活動をしている事は本当は恥ずかしくてたまらなかったけど、恥ずかしいなんて思ったら神様に将来、今までのことをしらみつぶしに調べられた時に殺されてしまうから、そんな事は考えないようにして、つくりものの笑顔を貼り付けて、私は立派な事をしているんだという、そういう安っぽい名誉を心に充満させて、何も考えないようにした。何も考えなかったら楽なんだ。でも両親は私の事を愛していてくれた筈なんだ。私が大事だから、神様の事を信じないといけないって言ってくれた筈なんだ。でもぜんぶ嘘なんだ。でも私の事は愛していてくれた筈なんだ。でも子供の私に分かる形ではくれなかった。ぜんぶ嘘なんだ。

胸が苦しいけど、完全に誰かを黒と決めつける事も出来ずに、ずっと足掻いている。どうしてこんな事になってしまったんだろう。

P.S もしこの文章を読んでしまって、私の事が心配でたまらなくなってしまった人がいたら、大丈夫です、私は自分で幸せを掴む為の旅に出ただけであって、この文章はそれまでの葛藤を吐き出しただけです。私は自分でちゃんと幸せになります。なれると思ってます。心配してくれてありがと。あなたも幸せになってね。



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