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物価連動債はインフレをヘッジできるのか?

 皆さんこんにちは。野菜のカブです。最近、世界的な高インフレが話題になっています。インフレは、ご存知の通りお金の価値を低下させます。しかし、物価に連動して動く「物価連動債」というものがあります。今回は、物価連動債が本当にインフレをヘッジできるのかを検証してみます。(今回は米国の物価連動国債を扱います)

そもそも物価連動債とは

 物価連動債とは、物価(消費者物価指数=CPI)に連動して元本(額面価格)が上下する債券です。物価が上がれば元本(額面価格)が増え、インカムも増えます。一方、物価が下がると元本(額面価格)が減り、インカムも減るように設計されています。
 つまり、物価上昇局面で物価連動債を持っていると元本(額面価格)、インカムの増加でインフレの影響を回避できます。しかし、物価連動でない債券(米10年債など)は物価が上がっても元本(額面価格)は変わらないため、インフレ局面では価値が目減りしてしまいます。

名目金利と実質金利

 いきなり金利の話になってどうした!?と思われるかもしれないですが、名目金利と実質金利は物価連動債に大きく関わる非常に重要なトピックです。
 名目金利とは、物価上昇の影響を含めない金利です。みなさんがいつも耳にする「金利」とは、たいていこの名目金利のことを指しています。通常の債券利回り(米10年債利回りなど)や銀行の預金金利は名目金利の例です。
 一方、実質金利とは、物価上昇の影響を含める金利のことです。実質金利は、名目金利から物価上昇率を差し引いて出されます。
 つまり名目金利<物価上昇率となるインフレ局面では実質金利はマイナスに、名目金利>物価上昇率となるデフレ局面では実質金利はプラスになります。
 
 物価連動債は「実質金利」に、通常の債券(米10年債)は「名目金利」に基づいて取引が行われます。←ここ、とても重要です。

物価が上がっても物価連動債が下落する!?

 物価連動債は物価が上がると元本(額面価格)は増えます。しかし、物価が上がっても、物価連動債の「市場価格」は下落してしまうことがあるのです。物価連動債の市場価格を見てみましょう。
物価連動債に連動する「iシェアーズ 米国物価連動国債ETF(TIP)」の2021年4月から2022年9月の値動きです。

また、同じ時期の消費者物価指数(CPI)の推移も見てみましょう。

あれれ!?物価は上がっているのに物価連動債は値下がりしています。これはなぜでしょう?ー答えは先程の「実質金利」にあります。
 物価連動債は実質金利に基づいて取引されると紹介しました。債券価格と金利は逆相関の関係があるので、実質金利が上昇する場面(名目金利上昇率>物価上昇率)では物価連動債の市場価格は下落してしまいます。
 今、高インフレを沈静化するためにFRB(連邦準備制度理事会)は政策金利(名目金利)をハイペースで引き上げています。これによって実質金利が上昇したため、物価が上昇しているにも関わらず物価連動債の市場価格は下落しているのです。
債券運用のPIMCOさんの分かりやすい図があったので引用させて頂きます。

https://japan.pimco.com/ja-jp/resources/education/bond-basic/fixed-income-1/what-is-inflation-indexed-bonds

今のアメリカが右上、今の日本が左上の状態に当たりますね。

インフレ局面では実質金利に関わらずインカム収入は増える

 インフレ+実質金利上昇の場面では物価連動債の市場価格は下がってしまいますが、元本(額面価格)は上昇するのでインカムは増えます。同じく2021年4月から2022年9月のTIPの分配金の推移を見てみましょう。

上下はしていますが全体的に上昇傾向です。次に分配利回りの推移を見てみましょう。

※TIPは毎月分配金が出る関係上、分配利回りは
分配金÷(株価÷12)×100(%)で出しています。公式サイトにある数字より少し高く出ていますが、傾向を捉えるものとして用います。
また、破線は平均値をとったものです。

CPIと重ねると…

CPI(破線)とTIPの分配利回り(破線)は綺麗に連動しています。
このように、市場価格が下がっても物価が上昇している限り、インカムは増えるのです。

まとめ

 物価連動債は、物価上昇率と実質金利の関係で動きます。
そのため、最近のように物価が上がっているにも関わらず、市場価格が下がるということも起こります。しかし、物価上昇局面ではいずれにせよインカムは増えるので、インカムは通常の債券と違ってインフレの影響を回避できます。ちょっと難しいですが、上手に活用できると非常に便利な金融商品ですね。



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