見出し画像

トラブルのない相続、財産承継の一手法(死因贈与)

トラブルのない相続、財産承継のための一手法として、
死因贈与についてのコメントです。

いわゆる終活という観点から
財産の整理を進めていく中で、
土地や建物という不動産の整理が必要になることがあり、
売買がよいか、贈与がよいか、
遺言でやるのがよいかといったことを考えていた中で、
事務所にあった、
『死因贈与の法律と実務』という本を手に取りました。

「死因贈与」はこれまであまりなじみがなかったのですが、
読んでみて、
トラブルのない相続、財産承継という観点から、
興味深く思いました。

相続については関心のある方もおられると思うので、
本の内容を少しシェアします。
(元々専門書で、わかりにくいところがあるのはご容赦ください。
 わかるところだけでもご覧ください)

この本は、
「死因贈与の二面性」と題して、
「死因贈与は、契約と遺贈との二面性を有している」
という指摘から始まります。

「遺贈」とは、遺言によって財産を譲り渡すことをいいますが、
死因贈与は、この遺贈によく似ているため、
民法554条は、死因贈与について、
「その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」と
定めています。

他方で、死因贈与は「贈与契約」の一種であり、
遺言者が単独で内容を決める「遺贈」とは異なり、
相手方との合意で成立する「契約」であるという性質があります。

だから、死因贈与には
契約と遺贈との二面性があるというわけです。

ただ、死因贈与の規定は554条の1か条しかないため、
遺贈の規定のうちどの規定を準用するか明確でなく、
学説判例が錯綜している論点もあると指摘されています。

「このように、死因贈与は、
契約法と相続法の狭間にあり、
ある意味でいずれの分野の研究者からも重視されない、
いわば忘れ去られた存在になっていたともいえる。」

次に指摘されているのは
「遺言の問題点」です。

近年の遺言の普及には目覚ましいものがあるが、
判断能力が衰えた時期に作成された遺言が多くなり、
遺言者の判断能力が問題となったり、
遺言能力はあるとしても、
その内容の客観的合理性には
疑問を抱かざるを得ないケースも少なくない。
また、遺言は、生前相続人には内容が秘されていたり、
一部の相続人だけが内容を知っていることも多いため、
相続開始後に、
遺言の作成やその内容を知らなかった相続人から
疑義が出ることも少なくない。

「遺言の作成は、無用な相続争いを防止するために提唱されてきたものであるが、
かえって遺言が相続争いを激化するケースも増えてきているのである。」

こうした問題意識から、筆者は、
「このような遺言の弊害を防止するために、
死因贈与契約を利用することが考えられてよいであろう」
と提案します。

「死因贈与の利点」としては、次のように指摘されています。

「死因贈与と遺贈との最大の違いは、
遺贈が単独行為であるのに反し、死因贈与は契約であるということである。
契約であるから、契約時、すなわち相続開始前に、
受贈者がその内容を承諾していることになる。
このことにより、受贈者は、
贈与を前提とした対応、行動をすることが可能になる。」

このことの含意は、
二当事者の合意である「契約」という形式を利用することによって、
贈与者の生きている間に、
贈与者の意図する財産承継をより実現しやすくできる場合がある
ということだと理解しました。

高齢者である被相続人を介護することを負担として、
一部の相続人や親族との間で負担付きの死因贈与契約をしたり、
事業承継などにも有効な場合があることも指摘されています。

この本の筆者が指摘するような
「遺言の問題点」はそのとおりであり、
私自身も、これまで相続案件等にかかわってきた中で、
「遺言者が自分の意思で書いた遺言」ではなく、
「一部の相続人が自分だけに有利になるように書かせた遺言」については、
争いとなることが多いと感じています。

相続トラブルを防ぐためには、
「被相続人(亡くなる方)の意思」「オープンさ」「公平さ」といったものが
キーになるものと考えていますが、
本書をきっかけにして、
死因贈与という手法についても、
これからアンテナを張り、
「契約」の妙味について、
折に触れ、考えていきたいと思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?