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なぜ非中央集権化(Decentralization)が必要なのか?

0. あいさつ

スタートアップ村におります「やす」と申します。
最近はクリプト領域を中心に調べつつ、Crypto系BizDev,Finance周りの仕事をさせていだいたりしてます。
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a16zのChris氏の文章が面白かったので、日本語訳載せてみます。
2018年2月(Coincheck事件の直後くらい)の古い記事ですが、非中央集権化のメリットやweb2.0の課題感に関しての内容としては色あせていないどころか寧ろ本筋直球の内容なので、是非読んでみると良いかと思います。
オリジナルの記事はこちらです。
https://cdixon.org/2018/02/18/why-decentralization-matters

1. インターネット2つの時代

①最初の時代(1980年代から2000年代初頭)→Web1.0
インターネットサービスはコミュニティによって制御されたオープンプロトコルに基づいて構築されました。これは、ゲームのルールが後で変更されないことを知っている人々や組織がインターネットでの存在感を高めることができることを意味しました。この時代に、Yahoo、Google、Amazon、Facebook、LinkedIn、YouTubeなどの巨大なWebプロパティが開始されました。その過程で、AOLのような集中型プラットフォームの重要性は大幅に低下しました。

②第二の時代(2000年代半ばから現在)→Web2.0
テクノロジー企業、特にGoogle、Apple、Facebook、Amazon(GAFA)は、オープンプロトコルの機能を急速に上回ったソフトウェアとサービスを構築しました。これはスマートフォンの爆発的な成長によってモバイルインターネットが普及することで加速していきました。最終的に、ユーザーは便利さ故にオープンサービスではなく、徐々にこれらの中央集権化されたサービスに移行しました。この時代、ユーザーはまだWebのようなオープンプロトコルにアクセスするとしても、結局GAFA系のサービスを介してアクセスすることになります。

2. これまでのインターネットの課題

テックジャイアントによる独占化が進むことは悪いことではなく、寧ろ何十億もの人々がこれらのテクノロジーにアクセスでき、その多くは無料で使用できる点で非常に良いことでした。

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しかし独占化が進むということは、そこに参加するスタートアップ,クリエーター,その他色々な人々が、彼らの突然のルールを変更に怯えることになりました。これによりイノベーションが抑制され、インターネットの面白さやダイナミックさが低下していったのです。

また、中央集権化は新たな社会課題を生み出しており、具体的にはフェイクニュース,国家が支援するボット,ユーザーの「プラットフォーム化禁止」,EUのプライバシー法,アルゴリズムによるバイアスなどのテーマをめぐる議論などが既になされております。こういった議論は今後数年間でさらに激化するでしょう。

3. 「Web3(Web3.0)」、それはインターネットの第3の時代

この中央集中化に対する一つの対応策は、大規模なインターネット企業に政府から規制を課すことです。ただこれはインターネットが電話やラジオ、テレビといった過去のハードウェアベースの通信ネットワークに似ていることを前提としています。しかし、過去のハードウェアベースのネットワークは、ソフトウェアベースのネットワークであるインターネットとは根本的に異なります。前者は一度構築すると再構築はほぼ不可能です。一方、後者は起業家のイノベーションと市場の力によって再構築することができてしまいます。

インターネットは究極のソフトウェアベースのネットワークであり、比較的シンプルなコア層と、完全にプログラム可能な何十億ものコンピュータをつなぐことで構成されています。ソフトウェアとは人間の思考をコード化したものなので、制作する際の制限がありません。インターネットに接続されたコンピュータは、基本的にユーザーが使いたいソフトウェアを自由に実行することができます。これらの特性により、新しいソフトウェアを作ったとき、ユーザーに対して適切なインセンティブ(そのソフトを利用する動機)さえあれば、すぐにインターネット上に広まります。このようにインターネットアーキテクチャは、技術的な創造性とインセンティブ・デザインが交差する場所です。

インターネットはまだ進化の初期段階です。今後数十年の間に、インターネットの中核となるサービスはほぼ完全に再構築されるでしょう。これを可能にするのが、ビットコインで初めて紹介され、イーサリアムでさらに発展したアイデアを一般化したCrypto-Economic Networksです。Crypto Networksは、インターネットの2つの時代の良い点を組み合わせたもので、コミュニティが管理する分散型ネットワークであり、最終的には最先端の中央集権的なサービスを超える機能を備えています

4. なぜ非中央集権化(Decentralization)が必要なのか?

Crypto Networksの支持者が分散化を支持する理由は「政府の検閲に抵抗するためである」とか「リバタリアンの政治的見解によるものである」といわれることがありますが、これらは本当に非中央集権化を必要とする理由ではありません。

それでは比較をするために中央集権的なプラットフォーム(GAFA系サービス)の問題点を見てみましょう。中央集権的なプラットフォームには定式化された3段階のライフサイクルがあります。

ローンチ初期は、ユーザー,開発者,企業,メディアなどのサードパーティの補完者を集めるために全力を尽くします。これはサードパーティのネットワーク効果を最大化させることで、プラットフォームの価値を高めるために行われます。

次にプラットフォームが以下画像のようなS字カーブを描くようになると、ユーザーやサードパーティに対するパワーが着実に大きくなっていきます。

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最後にS字カーブの頂点に達すると、ネットワーク参加者との関係がポジティブサム(win-winの関係)からゼロサム(片方が得すると片方が損する関係)に変わります。そのため、プラットフォーム側は成長を続けるための最も簡単な方法として、ユーザーからデータを抽出し、サードパーティとの競争を狙います。具体的には

・マイクロソフトとネットスケープ(MicrosoftがパクってInternet Explorerをローンチ。しかも無料)
・グーグルとYelp(パクってGoogle Mapを地域口コミに昇華)
・フェイスブックとジンガ(ゲームプラットフォームを制作)
・ツイッターとそのサードパーティ・クライアント(パクられた数々の機能)

などが挙げられるでしょう。また、iOSやAndroidのようなオペレーティングシステムはまだマシですが、それでも30%の税金を取り、恣意的な理由でアプリを拒否し、自由にサードパーティアプリの機能をパクってます。(iOSならApple Music, GameCenter, スクリーンタイムなど)

5. Crypto Networksへ参入

Crypto Networksとは、インターネットの上に構築されたネットワークで、主に
1)ブロックチェーンなどのコンセンサスメカニズムを使って状態を維持・更新し、
2)トークンを使ってコンセンサス参加者(採掘者/検証者)やそれ以外のネットワーク参加者にインセンティブを与える
ものです。

Crypto Networksには、イーサリアムのような汎用的なプログラミングプラットフォームもあれば、特殊な用途に特化したクリプトネットワークもあります。例えば、
・Bitcoin:主に価値の保存
・Golem:計算の実行
・Filecoin:分散型のファイル保存
を目的としています。

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初期のインターネットプロトコルは、ワーキンググループや非営利団体によって作成された技術仕様であり、インターネットコミュニティの利害関係者の一致を頼りに採用されていた。この方法は、インターネットのごく初期の段階ではうまく機能していましたが、1990年代初頭以降、新しいプロトコルが広く採用されることはほとんどありませんでした。Crypto Networksは、開発者やメンテナなどのネットワーク参加者にトークンという経済的インセンティブを与えることで、これらの問題を解決します。また、技術的にも非常に優れています。例えば、これまでのプロトコルでは実現できなかった、状態を保持し、その状態に対して任意の変換を行うことができます。

Crypto Networksは、複数のメカニズムを用いて、成長しても中立性が保たれるようにしており、中央集権的なプラットフォームのようなおとり商法を防いでいます。
・まず、Crypto Networksと参加者との間の契約は、オープンソース・コードによって守られています。
・第二に、Crypto Networksは、「発言(Voice)」「Exit(離脱)」のメカニズムによって制御されています(アルバートハーシュマン氏という経済学者による組織に所属する個人の振る舞いより)。参加者は、「オンチェーン」(プロトコルを介して)と「オフチェーン」(プロトコルを取り巻く社会構造を介して)の両方で、コミュニティガバナンスを通じて「発言」権を与えられます。参加者は、ネットワークを離れてコインを売却するか、極端な場合はプロトコルをフォークすることで「離脱」することができます。
→要するに、意思決定に不満があれば「発言(フォーラムでのプロポーザルなど)」「離脱(ハードフォーク)」という環境が整っているのがブロックチェーンの良さという意味。

つまり、Crypto Networksでは、ネットワークの参加者が、ネットワークの成長とトークンの価値向上という共通の目標に向かって協力し合うのです。ビットコインが、イーサリアムのような新しいCrypto Networksが登場しても、懐疑的な人たちを無視して繁栄を続けることができたのは、この連携があったからです。

6. 非中央集権が勝つ方法

分散型ネットワークが勝つべきだと言うことと、勝つだろうと言うことは別のことです。楽観的に考えられる具体的な理由を見てみましょう。

ソフトウェアやウェブサービスは、開発者によって作られます。世界には何百万人もの高度な技術を持った開発者がいます。しかし、テックジャイアントで働いているのはごく一部であり、その中で新製品の開発に携わっているのもごく一部です。歴史上最も重要なソフトウェアプロジェクトの多くは、スタートアップ企業や独立した開発者のコミュニティによって作られたものです。

"誰であろうと、最も賢い人のほとんどは誰かのために働いている"- ビル・ジョイ

分散型ネットワークがインターネットの第3の時代を勝ち取ることができるのは、第1の時代を勝ち取ったのと同じ理由で、起業家や開発者の心を掴んだからです。

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例えば、2000年代のウィキペディアとエンカルタ(Microsoft製のデジタル百科事典)のような中央集権的な競合製品との競争が挙げられます。2000年代初頭にこの2つの製品を比較した場合、エンカルタの方がトピックの網羅性や精度が高く、はるかに優れた製品でした。しかし、ウィキペディアは、より速いスピードで改善されていきました。それは、ウィキペディアには、分散型でコミュニティが管理するという理念に惹かれたボランティアの活発なコミュニティがあったからです。結果的に、2005年時点でウィキペディアはインターネット上で最も人気のあるリファレンスサイトとなり、エンカルタは2009年に閉鎖されました。

ここで得られた教訓としては、中央集権型と非中央集権型のシステムを比較する際には、硬直した製品として静的に考えるのではなく、プロセスとして動的に考える必要があるということです。中央集権型のシステムは、最初は完全にできあがっていても、制作してる企業(Microsoft)の社員が改善した分だけしか良くなりません。一方非中央集権型のシステムは、最初は中途半端な状態ですが、適切な条件下でシステムへの貢献者を集め、指数関数的に成長していきます。

Crypto Networksの場合、コア・プロトコルの開発者、補完的なCrypto Networksの開発者、サードパーティ・アプリケーションの開発者、ネットワークを運営するサービス・プロバイダーなど、複数のフィードバック・ループが存在します。これらのフィードバックループは、ビットコインやイーサリアムで見られたように、トークンインセンティブによって、クリプトコミュニティの発展速度を高めることができます(ただビットコインのマイニングで消費される過剰な電力のように、負の結果を招くこともあります…)。

本質的にはインターネットの次の時代を制するのは分散型か中央集権型かという問題は、どちらがより魅力的な製品を作るかということに帰着し、それはより多くの質の高い開発者や起業家を味方につけるかということに帰着します。GAFA(中央集権型)には、手元資金、大規模なユーザー基盤、運営インフラなど、多くのメリットがあります。一方、クリプトン・ネットワークは、開発者や起業家に対して、より魅力的な価値を提案しています。彼らの心を掴むことができれば、GAFAよりもはるかに多くのリソースを動員し、製品開発を急速に進めることができるのではないでしょうか。

"1989年に人々に「生活をより良くするために何が必要か」と尋ねたら、ハイパーテキストで結ばれた情報ノードの分散型ネットワークと答える人はまずいなかっただろう。"- ファーマー&ファーマー

中央集権型のプラットフォームには、発売時に魅力的なアプリがバンドルされていることが多い。Facebookにはソーシャル機能の中核となるものがあり、iPhoneにはいくつかの重要なアプリがありました。一方、非中央集権型プラットフォームは、明確なユースケースがなく、中途半端な状態で発売されることが多い。

その結果、製品と市場の適合の2つのフェーズを経る必要があります。
1)「プラットフォーム」と「エコシステムを構築する開発者や起業家」の間のプロダクト・マーケット・フィット(PMF)
2)「プラットフォーム/エコシステム」と「エンドユーザー」の間のプロダクト・マーケット・フィット(PMF)
この2段階のプロセスが、有能な技術者を含む多くの人々が、分散型プラットフォームの可能性を常に過小評価する原因となっています。

インターネットの次の時代

分散型ネットワークはインターネット上のすべての問題を解決する銀の弾丸ではありません。しかし、中央集権的なシステムよりもはるかに優れたアプローチを提供します。

具体例として、Twitterスパムの問題を、メールスパムの問題と比較してみましょう。Twitterがサードパーティの開発者にネットワークを閉鎖して以来、Twitterのスパムに取り組んでいる企業はTwitter自身だけとなってしまいました。対照的に、電子メールのスパムに対処しようとした企業は何百社もあり、ベンチャーキャピタルや企業からの何十億ドルもの資金提供を受けていました。メールスパムは解決されていませんが、現在はかなり改善されています。サードパーティは、メールプロトコルが分散化されていることを知っていたので、ゲームのルールが後から変わることを心配せずに、その上でビジネスを構築することができたからです。

また、ネットワークガバナンスの問題を考えてみましょう。今日、大規模なプラットフォームでは、責任のない従業員グループが、情報のランク付けやフィルタリング、どのユーザーが昇進し、どのユーザーが禁止されるかなど、重要なガバナンスの決定を行っています。Crypto Networksでは、これらの決定はオープンで透明性のあるメカニズムを使って、コミュニティによって行われます。オフラインの世界でも知られているように、民主的なシステムは完璧ではありませんが、他の方法に比べればはるかに優れています。

中央集権的なプラットフォームがあまりにも長い間支配的であったため、多くの人々はインターネットサービスを構築するためのより良い方法があることを忘れていました。Crypto Networksは、コミュニティが所有するネットワークを発展させ、サードパーティの開発者、クリエイター、ビジネスに公平な競争の場を提供する強力な方法です。私たちは、インターネットの最初の時代に、分散型システムの価値を目の当たりにしました。願わくば、次の時代にもそれを見ることができますように。

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