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もう誰も住む人が居ない実家

友だちの実家には、もう誰も住んでいません。友だちも住む予定はないので、さてこれからどうするかを考え中です。

支援学校の保護者会の帰りに、よく私は友だちの実家であるこの家に立ち寄っていました。友だちを訪ねては、お母さんからお昼ご飯におうどんをいただいたり、お父さんとお鍋をつついたり、ご馳走になっていました。

彼女は部屋は風通しがよく、とても居心地の良い部屋でした。たわいもないおしゃべりをしながら、二人で昼下がりの時間を過ごしていました。

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ある日、手土産に銀装のカステラを持って行きました。お父さんが「わしこれが好きやねん。」と目を細めて喜んでくれました。「また今度持ってきますね。」と言いました。

次にお父さんと会った時は、老人施設でした。おやつは施設に預けるので、銀装のカステラは渡せませんでした。

「また今度持ってきますね」と声をかけましたが、お父さんは認知症が重くなり、無表情で施設の中をぐるぐると歩き続けていました。

お父さんは、もう何もかも忘れていました。

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お父さんが亡くなり、お母さんも弱り、田舎の友だちの実家には誰も住む人が居なくなりました。

お供えにカステラを持ってきたらよかったと少し後悔をしました。でも位牌はこの家にはないと聞きました。

誰もここには住む人がいないですから。

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友だちはこれから実家をどうするのか悩んでいました。だから相談に乗り、一緒に役所の空き家バンクの窓口を訪ねました。実家の荷物の処理について衛生課を訪ねました。不動産屋にも話を聞いてみたほうがいいようです。

友だちは少しずつ元気がなくなっていました。

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家の中は、今にもお父さんとお母さんが出てきそうでした。雨戸を開けて、風を入れました。台所のテーブルで友だちの話を聞きました。

友だちは実家を片付けをしなければならないけど、思い出やいろいろな感情が込み上げてきて苦しそうでした。

二人で庭の金柑を摘みました。たくさん実が成っていましたが、住む人が居ないので、腐っていたり、小鳥に食べられていました。二人でたくさんの金柑を摘みました。

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「ゆっくり考えたらいいよ。またいつでも付き合うから。」
そう言って、私は帰ってきました。

友だちは実家の行く末を決めあぐねていました。現実的なやるべきことを突きつけるより、ただ隣に寄り添えばよかった。

もう1つ後悔をしながら、金柑を片手に帰りました。



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