見出し画像

バナナの気持ち

友人ご主人の話をするとき、いつも怒っています。互いが定年退職して以来、夫との時間が苦痛でたまらないとボヤきます。息が詰まるので、時々私の家を訪ねてくるのです。

「出てくる時も腹が立つの。誰と会うの、どこに行くの、いつ帰るの、ご飯はどうするの・・・それを何度も何度も繰り返すのよ。」どうやら友人の夫は認知症の入り口に立っているようです。

夫婦がこうなったのには、それまでの長い歴史があると思います。私からは何も尋ねません。友人が話したいことを黙って聞いているのです。

「夫がね、いつもバナナを買ってくるのよ。なぜ買ってくるのか聞いたら、あなたが好きだからだよとか言うのよ。馬鹿じゃないかしら、私は昔からバナナは嫌いなのよ。」

しかも熟していない甘くもないバナナを途切れることなく買ってくるので、仕方がないので友人は毎日嫌いなバナナを消費しているそうです。

・・・

ご主人はケチでした。子育ての時期、家計が不足するときは「おまえのやりくりが悪い」と責められます。だから友だちは黙ってパートで家計を助けました。進学とかで大きなお金が必要な時は、自分の実家に助けてもらい乗り切ってきました。孫が産まれてもケチは変わらず、お年玉もクリスマスやお誕生日のプレゼントも友人が準備をしています。

「クリスマスプレゼントなんて去年あげたからいいじゃないか」こんなことを言うので、友人は怒ってばかりです。

そんなご主人がバナナを切れることなく買ってくるので、まんざら嫌がらせとも思えません。とにかく「あなたはバナナが好きだし、バナナは栄養がある。イメージがバナナだ。バナナが似合う。」と繰り返すのです。どんだけバナナ推しなのでしょうか。「それなら完熟王を買ってこい!」と突っ込みたくなりました。

・・・

ボヤきを吐き出したので、友人はスッキリと帰っていきました。

それにしても何故にバナナなのか・・・私はティーカップを洗いながら考えました。

そういえば友だちは申年でした。

申・猿・サル=妻→バナナ


もしかしたらバナナはご主人の愛情表現の一つかもしれませんが、この2人はもう無理だろうなぁと思いました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?