舞踏とキャバレー:8 土方が手がけるショーの奇想天外な構成

■8 土方が手がけるショーの奇想天外な構成

武藤 話を少し戻しますと、田野さんが仰ったように土方は時間の構成が巧みだった、と。女の裸が見たくてお客さんが来るんだけれども、「それだったら裸を出せば良いんだろう」ということにすると、多分数分しか保たないと思うんですよね。「時間をどう保たせるのか」という所に時間の構成、別の言い方をすればドラマツルギーみたいなものが必要になってくる訳で、そこに踊りというものを考える必然と技術というものが関わってくるんじゃないかなと思う訳ですね。
 実際の踊りを映像で観られれば話が早いんですが、なかなかそういう訳にもいきません。語りやすい部分として実際にショーがどういう風に構成されていたのか、という部分をお伺いしたいな、と思います。田野さんにお伺いしてもいいですか?
田野 これは「将軍」の話ですか?
武藤 「将軍」ですね。
田野 流れとしては「トップ」……最初は衣裳着て出てきてね。六人全員前で踊る……五分くらいかな? なんとなく印象づける訳ですよ。それで一枚くらい脱いで、ゲストがソロで入る間に(裏で)着替えてる訳ですけど……他所から来たソロのダンサーたちがフリーでいる訳ですよ。その人たちを必ず一人入れる。
 つぎに二人とか三人とか出てくるんだけど、そのときに踊りながら脱いでいく。それで三曲終わって四曲目がレズビアンで、レズが終わった後引っ込んでレズに出てない人たち三人くらいが、なにか一曲くらい踊りながら……最後の踊りの前に「アクト」っていうのがある。
 「アクト」っていうのは客席を廻ってお客さんの所にしなだれかかったりね。それがとても下手な人もいれば上手な人もいるんだけど、不思議なことに踊りが上手けりゃ上手いってもんじゃないのね。そういう一人一人の個性ってのがある訳。そこで観てるお客さんはかわいい娘だったら「おっぱいは大きいかな」とか、いろいろ見る人もいるんだけど、一時間近いなかで踊りが上手いとか身体が綺麗だとかっていうようなことがお客としては楽しみな訳。
 最後は「アクト」から戻ってくると、下だけ。上はパッと脱いで、最後は全員で踊っていう流れになっています。

将軍の店内見取り図。当時踊っていたダンサーに描いてもらった。2002年当時の様子だが、概ねずっとこのままだったと思われる。

 (田野、スクリーンに移動)
 こっちから出てきてここに台をつくって貰って、そこ(台)に座って六人がばっと並んで足を上げたりなんか色々する訳。それを徹底的にリズムを落とさないでやるんです。最初はぶうぶう言ってたんだけど。そうすると緊張したときの顔っていうのは色目使ったときの顔とは、違う形の色気がある訳よ。それはとても面白かったわね。
 私は「将軍」にいる間、毎月衣裳と振付をしてたんです。衣裳は全部つくって。これはとても楽しくてね。いかに上手く脱げるか、ね。少しずつこうやって脱いでいく(*註 俗に言う「ティーズ」)って言うね。土方さんには正面で脱ぐような振りはない訳。ちょっと斜向かいになる。それがムードになる。
 それから客席に向かってロマンチックな雰囲気を、ちょっとセクシャルなムードをっていう見せ方を一曲一曲に入れていく。そういう流れです。 
武藤 さっきのレズビアンショー部分が……。
田野 それがメイン。あとソロダンサーがゲストで出るときは、お客さんだってその人目当てで来る人もいるし。それぞれのお客さんはダンサーたちの好みはあったわね。
武藤 ソロの部分とか、ラインになっている部分なんかは奇を衒ったものではない訳ですね?
田野 いや、奇を衒いますよ。でも、すっぽんぽんにはならないの。そんなのやったら捕まる。フィリピンの娘にとっては大変なことで強制送還されちゃう。そういう危険は犯しませんでしたけれども……わたしはセクシャルな部分といわゆるレビューぽいものは両方やったの。ただ舞踏の人はステップ出来ないのね。ステップっていう踊りじゃないから。だからそれはもう大変だったわね。
川本 日出子さんが「土方さんすごくそういうの上手いな」って仰ったんですけど、それをすごく感じたのがレズショーで、女性二人で松葉崩しやったりなんかして果ててその後に……そのままお客さんのところにチップを貰いに行くんですよ。
武藤 松葉崩しってなんですか?
川本 足をこう……。
客席 四十八手。子供の遊びで松葉を二つ絡めてどっちが勝ったって。
田野 若い人は分かんないわよ。
川本 ……そういうことを繰り広げるんですよ。それで果てた状態で、いままで絡んでた女性二人がふうって立ち上がって、その雰囲気のまま客席まで降りてくるんですよ。それでお客さんがその雰囲気に圧倒される。いままで絡んでたダンサーがそのまま……ふうって客席に入って行ってお客さんは吸い込まれるようにチップを入れてしまう。(会場笑
 今はそういう演出もあると思うんですけど、客席と舞台の境の失くし方っていうのがものすごく素敵で、ステージから降りてくるときのあの空気感。さっき仰っていた圧倒的な圧力があったりパワーがあったりして「素晴らしいわ」なんて圧倒されたと思ったら、今度は女の子たちが裸でなぜかツンにひょっとこのお面を付けて「ひゃああ」って舞台からまた出てきて、そのギャップが「なんなの、ここは?」って。(会場笑 
 お客さんがなにも考えられなくなっちゃう、という演出で引き込んでいく。いろんな要素の取り出し方っていうのが、ものすごくスペクタクル。
田野 やはり奇想天外ですよね。ちゃんと常識的にやってたのを急にずっこける。それがキャバレーですよ。それが日劇だとかなんだとかとは違う。キャバレーの妙技(*註)っていうのは奇想天外があって、思いも寄らないものが出てくる訳ですよ。
 だから私、男の人がかぶりつきやるの、分かるわね。(会場笑 あれはね、必要ですよ。男が成長するために。あなたね、松葉なんて分からないなんて言ってるようじゃダメね。それは勉強しなさい。そういう事ですよ。
 要するに、新聞一枚、本一冊、どこにも出てないけど、そこの劇場行くと勉強できるんだよって丁稚のひとたちが向島からやって来たのが浅草だから。丁稚から始まってるようなところがありますよ。だけど銀座は違う。
嵯峨 銀座と赤坂ね。やっぱりすごかったですね、あそこの歴史というのはね。
田野 両方あるんですよ。銀座もあれば、向島もある。ナイトクラブの横浜もあるけど、その真ん中にあるのは人間。右往左往してる訳ですよ。それは面白い時代でしたよ。

*註 「キャバレーの妙技」と言うより「土方巽の演出の妙技」なのでは?、と田野さんに訊いたところ「キャバレーの場ということで、土方さんはキャバレーをよく知っていたということです」との返答だった。つまり、流れが断ち切られて予想外の飛躍が起こるという展開は、キャバレーの王道なのだろう。

ー構成・檀原照和ー

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