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「ヨコハマメリー学」への誘(いざな)い

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2018年12月12日発売の『白い孤影 ヨコハマメリー』(ちくま文庫)をより深く読み解く上でのヒントをまとめてみました。 宮崎駿の映画『風の谷のナウシカ』を論じた『ナウシカ論』… もっと読む
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2020年9月の記事一覧

メリーさんのイメージの変遷

 彼女が終戦後に愛する米軍将校と離ればなれになり、以来白塗りと純白のドレス姿で彼を待ちつづけた、という「神話」を表舞台に上げたのは脚本家の杉山義法である。 「本牧(あるいは鎌倉)の豪邸に住んでいる」 「子供がいて一緒に住んでいた時期がある。いまもその子のために立ちつづけている」 などという数ある噂のひとつに過ぎなかったものが、ドキュメント映画のヒットにより定説になってしまったのだ。 しかしこうなる以前は、彼女の伝説は刻々と変化をつづけていた。  街角の奇人…80年代初頭の「

メリーさんは「本当は」いつ娼婦になったのか

改めて基本的な部分を検証したい。 メリーさんはいつ娼婦になったのだろうか? 人の口に上る物語によるならば、それは終戦後すぐの段階だという。 しかし映画「ヨコハマメリー」や中村監督の本でも明らかにされているとおり(そして拙著『白い孤影』でも取材話を書いているが)、彼女の故郷は岡山県の山里である。 故郷に留まっていれば、食うには困らなかったはずだ。 岡山県北部の中核都市・津山辺りならばまだしも、彼女の故郷までは進駐軍も足を伸ばさない。 つまり彼ら相手の娼婦、当時のいい方で言う「