永田風薫

永田風薫

最近の記事

7/30 18:33 渋谷

7/30 18:33 渋谷 格子構造の山脈と喧騒 鏡は薄い雲の層を写している。 繰り返し注意が促され 警笛が吹かれて一斉に人は歩き出す。 ぴゅうと 別れる 光の帯たちに ディスプレイの明滅が 調合する 私は明かりの一分の一に迫る 音は臨海に達して拡散していく ここは幾重にも断片が重なり 分散した格子構造体が組み合わさる 手が触れる ひどく赤熱していたそれは 昼間の太陽を覚えている 今日の月は出ない  星もない 這い回る光たちは元いた空を思い出せ

    • あの子はこの街に囚われる

      あの子はこの街に囚われる 2人は歩みを合わせる 高速のジャンクションは東京につながっている 行方を知らない なだらかな坂道に 自動車街が長く伸びる 丸くなったせなかは知らない 今はまだ知らない 道路越しの温もりに 映らない ガードミラーに 曇った 背中はもう無い 人は歩みを止めない でも景色は止まったまま 男女は歩みを止めない 歩調が崩れる 歩調は合わないまま もう誰もいない 史跡に陽が落ちる 彼女の家には辿り着けない 元気ですか だ

      • 健忘

        電話が鳴る 昨日の死者は光線を放つ 大きな二つの目が私を撃って 腐り果てる前に わたしから音を奪う そこでは考古学者たちが飛び跳ねながらわたしを笑う 新しくできた地質時代を祝いながら 視線が霞む 西陽が私を刺す  私は昨日に置いて行かれてしまった 文字たちが滲む 鳴き声が洩れる 誰かが忘れた 私は笑っている 薄く濁っている   そこで鈍く光って 底に沈む 静かに花が咲く  あなたが笑っている 私は笑うのをやめる 何かを忘れる

      7/30 18:33 渋谷