中国における民法典の制定/知財保護について

1. 知的財産権に関する規定は民法典の重要な構成部分である。

民法典における知的財産権に関係する条文は51条あり、民法典の重要な構成部分であると言えます。民法典の草案段階では、知的財産権に関する規定は独立した編にすべしとの議論もありましたが、最終的には、以下のような理由から、総則、契約編及び権利侵害責任編の中に分散して規定されました。
① 既存の知的財産権に関する規定が多く、かつ規定間の相違点(例えば、特許に関する規定と商標に関する規定等)が多い
② 知的財産権に関する法律規定は、経済の発展や技術の進歩等に伴う頻繁な修正が予測される
③ 知的財産権に関する規定は、行政側の諸事情(例えば、知的財産権に関する登録手続等)を与するものが多い。

2. 商業秘密を含む、知的財産権の客体が明記された。

民法典123条は、知的財産権は、民事権利の一種であると明記し、その客体は、①著作物、②発明、実用新案、意匠、③商標、④地理的表示、⑤商業秘密、⑥集積回路の配置設計、⑦植物新品種及び⑧法律所定のその他の客体であると列挙しました。
特に商業秘密は、過去に、不正競争防止法及びその関連法規に規定されていたのみでした。民法典に商業秘密は知的財産権の客体であると明記されたことから、民法典の施行後は当事者間の競争関係の有無を問わずに、法的保護を実現することが可能となります。

3. 懲罰的損害賠償制度の適用範囲が拡大される。

知的財産権の侵害に関する懲罰的損害賠償制度は、2013年の商標法修正時に同法に導入され、その後2019年の不正競争防止法の修正時にも導入されました。なお、現行の特許法及び著作権法に対する修正にも、懲罰的損害賠償制度が導入される予定ですが、これまでは、同制度の適用対象は商標権の権利侵害及び不正競争行為に限定されてきました。
これにつき民法典1185条は、「故意に他人の知的財産権を侵害し、情況が重大である場合、権利侵害を受けた者は相応の懲罰的賠償を請求する権利を有する。」と定めています。これによれば、民法典に明記された知的財産権の客体のいずれに対する侵害行為も懲罰的損害賠償制度の適用対象となると理解できます。
また、従来の商標法及び不正競争防止法における「悪意」 が「故意」に修正されたことにより、今後、懲罰的損害賠償制度を適用する際の権利者側の立証のハードルが低くなることが期待できます。

4. 技術契約が整備される。

技術契約について、現行の契約法322条は、「技術契約とは、当事者が技術の開発、譲渡、コンサルティング及びサービスにつき締結する相互間の権利、義務を確立する契約をいう」と定めていますが、技術のライセンスについては規定が明確でなく、これは「譲渡」されるものの中に含まれると解釈されて来たため、問題点として指摘されてきました。民法典843条は、この問題を是正し、「技術契約とは、当事者が技術の開発、譲渡、ライセンス、コンサルティング及びサービスにつき締結する相互間の権利、義務を確立する契約をいう」としています。
また、民法典850条は、「不法に技術を独占し、又は他人の技術成果を侵害する技術契約は無効とする」と定め、現行の契約法第329条 における「技術の進歩を妨げ」に関する部分を削除しました。一般論として、「不法に技術を独占する」ことは、「技術の進歩を妨げる」ことより、その要求が厳しく、また立証のハードルが高いと思われることから、具体的に無効とされる事情がいかなるものかは、今後の実務の動向を注目する必要があります。


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