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しなの鉄道 投資して応援しよう! 新型車両ファンドに応募してみて分かったこと

新型コロナによる需要減退で、大きな痛手を被っている鉄道会社。JRや大手民鉄は影響を受けていますが、地方の鉄道も例外ではありません。そうした苦境にあって、新しい取り組みを始めたのが”しなの鉄道”です。

この会社、なんと新型車両を購入するにあたって、一般人も購入できるファンドで資金を集めようとしているのです。筆者も早速一口応募しました!

今回の記事ではこのファンドについて取り上げつつ、ファンドへの応募を検討している人のためになる記事にします。特に分配金を得られる「出資分」で分かりづらい部分があり、丁寧に解説します。

なお、このファンドはセキュリテというクラウドファンディングを専門にする会社が募集をかけています。ファンド資金の提供先であるしなの鉄道もプレスリリースを出しているほか、東洋経済の解説記事もありますので、ぜひご覧ください。

1.しなの鉄道とは?

まず”しなの鉄道”はどんな鉄道会社なのか、ご紹介します。

Wikipediaより引用)

しなの鉄道は、長野県内の路線を運行している鉄道会社で、軽井沢駅から篠ノ井駅までの路線と、長野駅から妙高高原駅までの2路線を保有しています。いずれの路線も元は信越本線というJR東日本の在来線で、北陸新幹線の開業に伴いJR東日本の経営から外れました。その後、長野県や県下の銀行が出資する、いわゆる”第三セクター”の鉄道会社として運営されています。

ちなみに、筆者は長野県出身でもなければ在住しているわけでもありません。軽井沢に観光に行けば利用しますが、観光頻度も多くありません。ではなぜ、今回のファンドに応募したのか?日本初の取り組みというのもありますが、掛け捨て型の応援ファンドが多かった中で、分配金を受け取れるファンドとなっているからです。

2.新型車両ファンドについて

Wikipediaより引用)

しなの鉄道で導入が進む新型車両SR1系。この車両の購入費用の一部を外部の投資家から頂こうというのが、今回のファンドの趣旨です。新型車両は現行車両よりCO2排出が削減されますので、昨今注目を集めるESG投資にも合致します。個人向けと法人向けでファンド設定が異なりますが、個人向けであれば、一口50,000円(手数料2,000円を含めると合計52,000円)で応募できます。

このうち、25,000円は購入分、25,000円は出資分となります。購入分は寄付にあたり、出資分はしなの鉄道の業績に応じて毎年分配金がもらえます。

3.購入分のメリット

購入分はいわば寄付に相当しますので、25,000円が還ってくるわけではありませんが、鉄道ファンには嬉しい購入商品がついてきます。

セキュリテより引用)

”ろくもん”とはしなの鉄道で運行されている観光列車です。JR九州の観光列車“ななつ星”を監修した水戸岡鋭治氏によりデザインされ、2014年から運行を開始しています。車内で食事を取れるプランもあります。

4.出資分のリターンは?

さて気になるのが出資分のリターン。本当に分配金は支払われるのでしょうか?

分配金の計算はセキュリテのサイトを見るとなかなか複雑ですが、シンプルに言えば次の通りです。

●しなの鉄道の“定期外収入”がファンドの売上に相当。
●この定期外収入次第で、毎年の分配金が決まる。
●ファンドは2021年7月から10年間続き、10年後に最終的な結果が分かる。
●収入の目標値と損益分岐点(リクープ)は決まっている。目標値を達成すれば、また達成せずとも分岐点を超えれば出資金額以上の分配金が還ってくる。分岐点を下回った場合は、出資金額を下回る分配金となり元本割れとなる。

まず、定期外収入とは何でしょうか?鉄道会社では運賃収入を計算する際、定期収入と定期外収入に分けます。前者は定期券を購入して利用している乗客、つまり日常的に利用する通勤・通学客から得られます。一方後者はそれ以外、つまり観光客やたまに鉄道を利用する沿線住民から得られます。

定期収入は、沿線住民が減ったり、学校や会社が閉鎖されたりしない限りは、通常であれば大きく減少しません。もっとも、このコロナ禍ではテレワークや自宅学習などが増えており、定期券の解約も起きていますので、コロナによる影響は少なからずあります。

一方、定期外収入は観光客が増えればその分収入も増えますので、鉄道会社の成長を占うにはもってこいの指標になります。今回のファンドは地域活性化に資するという目的もあり、ファンドの売上はこの定期外収入と設定されています。

では定期外収入の目標値と損益分岐点はどうなっているのでしょうか?

セキュリテより引用)

目標値は10年間の合計で、約140億円。損益分岐点は、10年間の合計で100億円。つまり10年間の定期外収入が100億円を超えれば、出資者は利益を得られます。続いて、しなの鉄道の計画では定期外収入はどう見積られているのでしょうか?

セキュリテより抜粋)

上述の通り、事業計画では10年間の収入合計は140億を見込んでいます。ただ直近ではコロナ禍の影響を受けており、1年目、つまり21年度の目標収入はすでに19年度実績より少なくなっています。とはいえ22年度以降、コロナの影響が弱まり、収入が拡大していく絵姿になっており、この通りになることを期待しています。

さて、分配金は毎年の定期外収入に応じて受け取ることができます。ここでは3つのケースに分けて、1口あたりの分配金(25,000円を出資した場合)と収入の累計がどのように推移するか、グラフ化してみました。

なお、前掲の東洋経済の記事では、しなの鉄道の担当者はこの様に話しています。

「10年間の合計で見れば元本割れリスクは低いのではないか。また、出資部分が元本割れしたとしても、商品部分がかなりお得な内容なのでトータルで元本割れするリスクはさらに低い」

果たして10年後に結果はどう出るでしょうか?毎年分配金を受け取りつつ、楽しみに待っていたいと思います。

5.車両購入費用を賄える?

このファンドの募集目標額は、5,000万円(個人は3,000万円、法人は2,000万円)。そのうち、約1,400万円が車両購入費用に充てられます。果たしてこの金額で新車は買えるのか、と疑問に思う方も居られると思いますが、残念ながらこの金額だと電車1両分にもなりません。

しなの鉄道の新車SR1系は2両編成で、合計46両(23編成)を導入する計画です。事業総額は95億円ですので、1両あたりに換算すると約2億円。ファンドで賄える金額はわずかです。

ではファンドの意味はないかというと、そうではありません。東洋経済の記事では、このように記されています。

「新たな資金調達手段というよりもむしろ、しなの鉄道を応援してくれる人を増やすための新たなチャレンジである」(中略)お金を出した後も長期にわたって、しなの鉄道の経営に注目してもらう。そのための手段として、ファンドへの出資者という立場でしなの鉄道を応援してもらうことにしたのだ。

6.これまでの鉄道支援金とはどう違う?

従来の鉄道会社への支援金は、今回のファンドでいう「購入型」の設定になっていました。つまり寄付する代わりに、鉄道会社から商品やサービスを受け取れるというものです。鉄道ファンとしてはそれでも満足するでしょうが、それ以外の一般投資家の注目を集めるには不充分でした。

しなの鉄道のファンドでは、個人投資の場合でも購入型に加えて出資型のミックスとなっている点が日本で初めてで、革新的な取り組みと言えます。法人投資では出資型限定となっており、法人投資家も集めたいというのがしなの鉄道の狙いのようです。


一鉄道ファンである筆者としては、このファンドで目標額まで資金が集まることを祈りつつ、似た取り組みが増え、こうしたファンドがコロナ禍で経営が苦しい地方公共交通を支える一助になることを願っています。

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