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注目図書

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私のお気に入りの図書の紹介と感想です
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記事一覧

入門現代の電磁気学

200年にわたり親しまれてきたマクスウエルの方程式が、さらなる高みからの記述に変わろうとしている。マクスウエルの方程式を特殊相対性理論の観点から作用素を含む美しい2本の式(時間と3次元座標の4要素のベクトル式)で表現する試みである。本書はそのゴールに向けて1章と2章を特殊相対性理論の数式導出に当て、3章以下の流れが最後に特殊相対性理論の式と融合する。未来の電磁気学は量子力学にも通底するこちらの記述に移っていくだろうと予感させる一冊。 #わたしの本棚 #入門現代の電磁気学 は

73光年の妖怪

73光年かなたから妖怪が地球に送り込まれる。彼の星には、罪人が未知の惑星に送り込まれ、運良くその惑星で生き残り、母星に帰り着ければ英雄になる社会制度があった。妖怪は本体を安全なところに秘匿し、その魂を次々と動物から動物に乗り移していく。狙いは一流の科学者に憑依し、宇宙船を建造させて母星に帰還すること。科学者と妖怪の頭脳戦が幕を開ける。 #わたしの本棚 #73光年の妖怪 73光年の妖怪 高校生の時に読んだSF小説。 きっと日本語に翻訳した方にも才があったのだろう。 すごく

未来は予測するものではなく創造するものである

イシューからはいる「コンサルティング」と真逆に位置する「SFプロトタイピング」。その考え方と実践方法を、豊富な実践例を交えて紹介している。作品そのものの質より、参加メンバーを既成観念から解き放ち、メンバーの「妄想」を爆発させることが貴重と主張する一方で、実際にSFプロトタイピング手法で創作した作品や著名なSF作品を例にあげつつ、良い作品作りのノウハウを多方面から紹介してくれる。 #わたしの本棚 #未来は予測するものではなく創造するものである はじめに「SFプロトタイピング」

SFプロトタイピング

はじめに2021年6月の刊行時に一読して、ハマってしまった一冊。 ちょうど日本機械学会技術ロードマップ委員長の大冨先生が「いままでは従来技術の延長線上で2030年の未来を予測してきたが、2030年の技術予測は各部門に任せ、親委員会では2050年の未来予測を行いたい」と宣言し、 過去の性能向上のラインを調査し、それを未来に外挿する手法は、CRTから液晶などの技術の跳躍に対応できないと感じていた私がちょうど技術ロードマップ委員会の活動に前のめりになっていたときに刊行された。

脳の意識機械の意識

ものが見えること自体が「意識」が存在している証であることを明快に説明し、「意識」を工学的手法で解明する道筋を示す。脳にブラックボックス領域は存在せず、脳のどこにも「意識」を司る特定領域がないことがわかっている。著者は「情報処理アルゴリズムが意識を生む」と仮定し、この仮定を実験で確かめる術、「機械への意識の移植」を提案する。2017年に刊行された書籍だがますます輝きを増している一冊。 #私の本棚 #脳の意識機械の意識 はじめに2017年にTwitterのTLに流れてきて即購入

背骨のゆがみは万病のもと

基本的に薬を用いないで体の不調を回復する「甲田医院」が推奨する「断食・食事・体操」のうち背骨のゆがみを矯正する「体操」に焦点を絞って書かれているが、随所に断食療法や食事療法についても言及している。豊富な事例にもとづいて、いかに日本の現代社会が健康を損なう要素に満ち満ちているかを示し、その中で健康を回復・維持していく方法に言及する。 #私の本棚 #背骨のゆがみは万病のもと はじめに嫁さんが探してきた「甲田療法」 その健康法のいくつかは我が家で実践していて、 おかげさまで健康を

言語の本質

永らく言語の要件を満たさないとされてきた「ワンワン」などの「オノマトペ」が、言語の根源でかつ言語発達のミッシングリンクである可能性を示し、人間の「アプダクション」(仮説形成)推論能力こそがヒトが言語を発達させた原動力であることを豊富な実験例で示す。記号接地していないAIとヒトの言語処理の違いについても考察を行う。豊富な事例を前に、動物と言語、AIと言語など妄想が広がっていく #私の本棚 #言語の本質 はじめに第15回Langage and Robotics研究会で 内田諭先

沈まぬ太陽

航空会社の労働組合で委員長を務め、会社に目をつけられてカラチ、テヘラン、ナイロビを転々とする恩地と、同時期に副委員長を務めながら転向して出世街道まっしぐらの行天。それぞれの信念が絡み合いながら物語は進む。彼らを取り巻く人間模様と、航空機事故に絡む多様な人物の感情と行動を取り上げ、 「わたしがこの状況下に置かれていたらどう生きるか」を深く考えさせられる作品。 #わたしの本棚 #沈まぬ太陽 はじめに何年も取材に時間をかけ、臨場感のある社会派小説を書き続けた山崎豊子渾身の作品。

アマゾンが描く2022年の世界(2023年6月22日追記)

アマゾンの「0.1人セグメンテーション戦略」にもとづいて、 2022年11月17日木曜日に32歳のフリーランス佐藤一郎さんが過ごした1日を描くところから本書は始まる。続く章で、アマゾンの戦略をファイブファクターメソッドで分析していく。2050年の未来に向けたロードマップ作成に携わっている身としては、2017年に出版された本書に描かれている1日がどの程度実現されているのかに興味がある。 #私の本棚 #アマゾンが描く2022年の世界 はじめに2017年に、5年後の2022年に向

「アリストテレスのまぼろし工場」封切り日決定記念「学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで」(岡田麿里関連アニメリンクあり)

数々のヒット作を生み出してきたアニメ脚本家の岡田麿里さんが「心が叫びたがってるんだ。」を世に出した時に執筆された、岡田麿里さん初の自伝。登場するアニメタイトルは「花咲くいろは」「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」「心が叫びたがってるんだ。」の3編のみだが、本書の読後にこれらの作品を観ると登場人物が岡田麿里さんと重なって見えてくる。各章冒頭の挿し絵もまた美しい。 #わたしの本棚 #学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで はじめにわたしがリスペクトしてい

因果推論の科学(2023年7月10日統計的因果推論追記)

ベイジアンネットワークを用いた未来予測と因果推論に貢献した業績でチューリング賞を受賞した著者が自ら理論の限界に気づき、環境に働きかけること(介入)で一段、事実に反する仮定を想定すること(反事実)でさらに一段高所から因果推論を行う理論展開を試みたチャレンジングな一冊。著者自らが考案した因果ダイアグラムをチェーン、フォーク、コライダーに整理し、さらにバックドアの概念を導入すれば因果推論が明瞭に行えることを示す。 #わたしの本棚 #因果推論の科学 はじめに「人工知能」の「データ中

バイオハッキング

2018年当時、すでにアメリカにはさまざまなセンサや器具、電子回路を体内に埋め込み、知覚を鋭敏にしたり、磁気や放射線などを感じ取れるように自分の能力を増強するバイオハッカー集団「グラインドハウス・ウェットウェア」や、彼らに身体改造装置を提供する集団「グラインダー」などが存在した。本書は、彼らがどうして人間拡張にとりつかれているのか。そして彼らの悲願はどのようにしてどこまで達成されているのかを浮き彫りにしていく。 #わたしの本棚 #バイオハッキング はじめに本書を読んだ時、体

マッキンゼーが予測する未来(2023年6月2日関連ツイート追記)

6年前の2017年に刊行された未来予測の書籍。今までにない破壊的な4つの力「経済重心の移動」「技術の爆発的加速」「地球規模の老化」「結合の緊密化」により世界が大きく変貌するとした予言は現在も揺るがない。本書ではマッキンゼーが総力を挙げたデータ分析と事例解析により、この4つの力の一つ一つが人類社会に産業革命を超えるインパクトを与えると主張する。本書の主張は正鵠を射ており、いまなお私の未来予測の道しるべとなっている。 #わたしの本棚 #マッキンゼーが予測する未来 はじめに日本機

氷点

キリスト教徒である三浦綾子が聖書に出てくる「原罪」をテーマに執筆した作品。自分の娘を殺した殺人犯の娘「陽子」を引き取って育てることにする夫。真相を知り陽子をいじめはじめる妻、そして自分が夫婦の真の子どもではないことを悟ってそのいじめに耐え抜いて明るく生きようとする陽子。やがて、その陽子にも、心が折れる瞬間、陽子にとっての「氷点」が訪れる。救いがないと思われた結末は、「救済」がテーマの「続氷点」に引き継がれる。 #わたしの本棚 #氷点 はじめに1995年ごろ、「栗田式速読法」