子どもと大人の素振りを行き来する
「おすすめされた本読みました。いい本ですね、子どもと大人の素振りを行き来してる人が書いてるみたいで、泣いたり笑ったりしてしまいました。」
3月に東京へ行った。そのときに会ったひとつ下の後輩は、わたしが発する言葉はすべて理解してくれるだろう、と思える存在だ。共感はしてもらえないことも多いが、ちゃんとわかってくれる。一年ぶりに会って、話をした。
出会ったのは20歳のときだった。出会ったときからなんとなく波長が合う気がしたし、気づけばたまに一緒にいた。周りと群れずにマイペース。でも寂しがりやで、よく群れるのが苦手な自分のことを嘆いていた。わたしも同じような人間で、ただ、そんな自分のことを認めないとやっていけなかったから、嘆くことができるのが可愛くて羨ましかった。映画館でバイトをしていて、映画の趣味もよく合った。そしていわゆる本の虫。本を買うことがストレス発散で、本を買うことくらいにしかお金を使わないんですと、寂しがりやな発言をしていた。
そして現在は、映画や本など、良いコンテンツを世に送り出す仕事がしたいという夢を叶え、出版社で働いている。
映画については対等に意見を交わせても、本については触れられないくらいの知識と愛を持っている。だが、そのとき読んでいた本をどうしても、おすすめしたかった。
それはそれは緊張した。それまでなんだかくだらないけどわたしたちにとっては重要なことで盛り上がっていたような気もするが、そういえばおすすめしたい本があってね!と切り出したとたん、どんな言葉でおすすめしたらいいのかわからなくて顔が熱くなった。
お酒のせいにしたつもりだったが、本当はただ「本をお勧めする」という行為に緊張していた。文章にならない文章で、アワアワしたあとに、無理やりまとめるようにこう伝えた。
「うまく伝えられないんだけど……
とにかく、好きだと思うんだ。
寂しがりやだし。」
それから今日、冒頭の返事が来た。東京で会ってから1ヶ月以上連絡を取り合っていないのだが、そういうところがまた好きである。忘れてくれても良かったのに、おすすめされたからと読んでくれたのだろう。
「おすすめされた本読みました。いい本ですね、子どもと大人の素振りを行き来してる人が書いてるみたいで、泣いたり笑ったりしてしまいました。いい本に出会えました。本当に感謝です。」
子どもと大人の素振りを行き来してるって、なんだか自分たちのことみたいだと思った。寂しがりやで、良いコンテンツに触れてひとり泣いたり笑ったり。
「次会えるなら東京でも広島でもない場所がいいです。」
そんな気持ちも一緒だった。もう東京は、しばらくお腹いっぱいだ。一応後輩と表現したけれど、一生付き合える愛すべき似た者同士なのだと思う。そして最後に元気よく、こう書いてあった。
「良い本あったら紹介するんで、お楽しみに!!!」
そうやってまた忘れた頃に、おすすめの本を教えてくれるのだろう。寂しがりや同士だから、年に一回くらいは、会わなきゃね。遠く東京で都会の荒波に揉まれながらも、どうか元気でいてね。