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中国インターネット病院の現状と今後の課題

2021年1月16日、ウィーチャットアカウント「奇偶派」は「インターネット医療は薬の神様なのか?」と題する記事を掲載し、中国のインターネット病院の現状とその課題について説明した。

00 インターネット病院が急増した!

2015年12月7日、中国で最初のインターネット病院「烏鎮インターネット病院」が成立し、ネット上での電子処方箋・医者の指示延長・電子カルテのシェアリング等のサービスの口火を切った。

それから5年経った現在、便利さ・速さにより、インターネット病院の診療と薬購入はかなりの中国人に受け入れられるようになっている。特に新型コロナウイルス肺炎の流行以降は、オンライン診療が政策の後押しを受け、莫大なユーザー獲得に成功した。

『2020中国インターネット医療業界研究報告』には以下のようなデータがある。
・インターネット病院の診療受入患者数→毎月のべ3億人以上
・インターネット病院数→600施設
・営業許認可を受けたインターネット薬局数→693店
・インターネット診療のアクティブユーザー数→毎月5400万以上(ピーク時6000万)

しかし、インターネット病院ユーザーの7割近くは中卒以下の学歴しか持っていないという。ネットユーザーに専門の医療・健康知識が欠けていることは、インターネット病院がそれを補完する役割を担えるかもしれないが、他方で患者があまりに手軽にオンライン診療と薬購入ができることは、非常に大きなリスクもはらんでいる。

01 患者はどの薬を買えばいいのか?

「難しすぎる。1週間たってもまだ買えない。」インターネット病院の新ユーザーとして梅歓さんは最初にネットで診療を受けて薬を購入したときの経験をこう語る。ある晩、梅歓さんがベッドに横になっていたとき、突然呼吸が苦しくなり、息が吸えなくなった。そこで彼女は先日知人から耳にした「京東健康」「平安医家」「丁香医生」「医鹿(元アリババ健康)」というオンライン診療アプリをスマートフォンにダウンロードし、オンライン診療を受けてみた。

梅歓さんが「京東健康」のオンライン診療を利用してみたところ、呼吸器内科のある医師(三級甲等病院に勤務)は初診で「気道高反応」という診断を出し「アミノフィリン」を服用したほうがいい、とアドバイスした。ところが3日後に彼女が再び京東健康を利用したところ、別の医師(中医内科)を紹介され、その医師は彼女に問診で「肝鬱が重すぎる」とし、「丹栀逍遥丸」という中医処方薬(漢方薬)を服用するようアドバイスした。梅歓さんは同一のサービスプラットフォーム内で、患者の症状が同じなのに、異なる診療科が紹介され、さらに違った診断結果と服薬アドバイスが出たことに強く疑問を抱いた。

梅歓さんは続けて「平安医家」のアプリを使い、呼吸器内科の医師に診療を受けたが、そこでは「せき変異性喘息で、検査の必要あり」と診断され、「硫酸サルブタモール吸入薬」と「モンテルカスト」という処方薬を紹介された。また「丁香医生」のオンライン診療を受けると、「(近くの)病院に行って検査を受けてから、病院の先生に直接処方箋を出してもらってください」というアドバイスを受けた…

梅歓さんは結局、さまざまな診断結果に対し、どの薬を買えばよいのか、わけがわからなった。しかし、こうした状況があるにも関わらず、ユーザーと患者がインターネット病院を利用して医薬品を手に入れることは、かつてなく容易になっているところに矛盾がある。

02  医師の問診はコピペに頼っている?

患者が医療において自分に最適な医師を探し出すことは非常に難しいが、病院では各種の診療方法のサポートおよび検査により、その問題について補正することが可能だ。しかし、インターネット病院ではこの問題がさらに拡大される。

実を言うと、京東健康の医師の回答については、登録されている医師は多くの場合、プラットフォーム内の「モデル回答」をコピーして使用している。2020年11月の国家薬品監督管理局『薬品インターネット販売監督管理方法(意見募集稿)』では、ユーザーは「執業医師」の指導の下で薬を購入・使用するよう規定しているが、しかしインターネット病院の処方薬についての厳格な監督・管理は非常に形式的で、消費者にとって購入のハードルがほぼなくなっている。

京東健康はユーザーが問診で薬の服用歴とアレルギー歴を記入するとき、これらの様式化された質問を「電子処方箋」と「医師との問答」の中にひそかに移している。つまり、ユーザーは医師による実質的な問診過程を経なくても、インターネット病院プラットフォームで気楽に自分が欲しい処方薬を注文できるようになっているのだ。この全過程は極端にネット化されており、野菜を買うようにあっという間に薬が買える。この便利な電子処方箋の入手方法は、「偽診断」「偽処方」を生み出し、インターネット病院の信用を傷つけ、全業界に与えるリスクが非常に大きい。

03 ネット病院は薬販売に夢中

インターネット病院は、「健康知識の普及」と「早期スクリーニング問診」だけでは利益を出せず、プラットフォームの現在の主な収入源は薬販売になっている。薬販売の収入が京東健康の総収入の約9割を占めている。アリババ健康の薬販売の総収入に占める割合はさらに高く、かつ毎年増加している。その他のプラットフォームの状況もだいたい同じである。

プラットフォームが薬販売に過度に依存しているため、多くのインターネット病院は売上増加のプレッシャーの下、ユーザーと患者にスピーディーに薬を購入させるため誘導しようとしている。薬購入取引の成功が、多くのインターネット病院プラットフォームでは業績評価の唯一の基準になっている。

インターネット病院プラットフォームは、医師と患者の関係をオフラインからオンラインへと移行させたが、双方の矛盾や衝突を解決する可能性を示せてはいない。プラットフォームは利益増大のプレッシャーの下、システムそのものと医師たちがユーザーと患者に薬購入行動を加速させ、監督管理から逃れようとするリスクをはらんでいる。

04 「医師の神様」になるべき?

上海復旦大学病院管理研究所の高解春所長は、インターネット上で2タイプの診療は完成できると語る:
1) 患者が初診のあと検査し、さらに報告書を医師に見せに行かなければならないとき。初診時にすでに問診をしているので、後から医師が報告書を見て処方するのは、インターネット上で行える。
2) 慢性病患者の長期的な健康管理で、たとえば定期の健康通知・健康診断通知・定期の調薬など。慢性病患者は大病院に来る診療患者数のほぼ30%を占めている。
以上の2タイプの患者数は現在、大多数の公立病院が提供する毎日の医療サービス量のうち40%近くを占めている。インターネット病院は、「薬」ではなく「医(医師)」の問題を解決する上で巨大な潜在力を秘めている。

インターネット病院は、全国の医師資源の不均衡現象を改善させる可能性もある。医師が空いた時間に更に多くの患者のために、詳しい診療と回答を行える。オフラインでは外来で一人の医師が毎日何十人も患者を見るので、それぞれの患者にさける時間はとても少なくなる。しかも、全国の医師のレベルの差・都市と農村間の差・東部と西部の差は大きいので、インターネット病院は、すくなくとも健康知識の普及と初診サービスの面で医療資源が欠けている地域のために貢献することができる。

現在の中国のインターネット病院はまだ「医師によって誘導し、薬品によって儲ける」という粗野な発展段階にあるが、その本来の目標はインターネット病院が「薬の神様」になることにあるではなく、「医師の神様」になることにあるのではないだろうか?(翻訳・編集/矢野)

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