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怪談と冗談の間                    ~短くなるフランスパン~

おかしい、フランスパンが短くなっている。

俺は今とある東南アジアの途上国に来ている。その日は朝から工業団地に視察に行くため、ホテルでの朝食が取れなかったが、ホテル側の計らいでパンとバナナを持たせてくれた。パンは、その国の慣習なのか、豪快にフランスパン丸まる1本だ。

工業団地の視察も無事終わり、町中に戻ってきてからのランチタイム。時間がなかったので20分でドライバーに戻ってくるように言い渡し、我々は日本食屋でラーメンをかきこむ。

異変に気付いたのは、昼食の後に車に戻った時だった。フランスパンが短くなっていないか。俺の記憶では午前中に二口ぐらい端から齧ったはずだが、今見ると1/3はなくなっている。

いやまさかな

私には、そんなことを気にしている暇はない。
読者の皆さんが思っているより海外出張はずっと過酷だ。基本的に人に会いまくっており、会議の議事録を取りつつ、次の会議場所を指示し、出張先で口が軽くなった上司から耳より人事情報を聞き出し、夜のレストランを抑える必要がある。

やはりおかしい

夕刻の最後のアポイントを終えて、車に戻った時にはフランスパンは1/2程の長さになっていた。

誰かが私のパンを食べている

そういえば、朝見た工業団地は元々墓地を潰して造成されたらしい、、
いや、車も結構おんぼろだからネズミ君の仕業だろうか

そして夜の会食の時間が来た。
殊の外クライアントとの会食は盛り上がり、「もう一軒!」という事で日式カラオケになだれ込み、夜11時半本日の日程を全て終える。車に戻り、後はホテルに帰るだけである。

ホテルまでの帰路は、心地よい疲労感と共にネクタイを緩め窓を開け夜風にあたる。日本とは違うくすんだネオンが又旅情をそそる

この時点で私はフランスパンの事は全く忘れていた。

そしてホテル到着、車を降りようとした時に、俺はホテルのカードキーが手元にない事に気づく。確か座席の前ポケットに入れておいたはずだが、、
ガサゴソガサゴソ・・・みつからん。

落ちたかな、座席の下をガサゴゾガサゴソ・・・
やばいやばいやばい上司待ってくれてるし、焦り出した私は同じところを何度もまさぐるも虚しい空振りが続く。

その時、毅然と前を向いていたドライバーが俺の方に振り返っていった
「ごめん俺が食べたんだ」


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