「ホラー漫画家は激しく嗚咽する」感想と考察


玄黄武「ホラー漫画家は激しく嗚咽する」
https://comic-days.com/episode/10834108156738607471

好きな短編漫画なので、以前書いた感想+考察を載せておきます。

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面白かった。
実に業の深い作品だ。
ここまで踏み込む必要があるのか?というところまで踏み込んでいる。

以下、ネタバレありの感想。

「覚悟を決めて漫画を描いたら、それが友達のためにもなって、ちょっと救われる話」として読んで、おおーいいなーと思ったんですが、ちょっと引っかかるんで何回か読み直してみたんですよ。

どこで引っかかるのかなと。

この話、友人がライターでタバコ吸う場面えらく多くありませんか?
注意して読んでみると、登場するたびに必ずライターで火をつけて、必ずタバコ吸うんですよ。

だから、友人には「火をつけるキャラ」というイメージが残っちゃうんですよ。
絶対に作者がわざとやってる演出だと思うんですけど、これ、話の内容から考えると、すごく怖いですよね。

あと、内容にも疑問があるんですよ。

なんで主人公は最後嗚咽するのか。
なんで友達のことを描けなかったのか。

そう思って読んでみると、最後のページの上のコマ、主人公、バックパック背負ってるんですね。飲み屋ではバックパック持ってないのに。

バックパック背負ってるコマを探すと、それは家で写真撮っている時なんです。つまり回想シーンなんですね。

主人公は、家で写真撮った時に、友人がリビングにいる光景を見ていたってことになります。でも、それを描けなかった。「嘘がないように」って言ってるのに描けなかった。

「友人は火をつけるキャラとして描写されている」
「友人がリビングにいた様子を、主人公は焼け跡から感じ取った」
「主人公はそれを絵に描かなかった」
「それを思い出した主人公は激しく嗚咽した」

確たる証拠は何もありません。
しかし、疑惑と挫折をイメージさせるように作られているのです

ここまで踏み込むと「ホラー漫画家は激しく嗚咽する」というタイトルが、実によく出来ていることがわかります。

このタイトルは、疑念を持った読者の答え合わせ的なものとして付けられたものなのではないでしょうか。

この漫画、友人が原因で火事が起こったと考えれば、つじつまが合うように構成されてるんですよ。

最後に「直接聞きたいことがある」といって呼び出されますよね?

それはなにか?
「リビングの場面、なぜ描ける?」

つまり「あの日のことを、どこまでお前は知っている? 見ていたのか?」

「嘘にならないよう描いた」という答えで、友人は安心します。

それに対して主人公は「お前がいたことは、現場を見た時にわかったけど、それは描かなかったよ」と告げるわけです。だから嗚咽する。

友人に対する悲しみでもあり、非情な漫画家に徹しきれなかった挫折の涙でもあるはずです

この解釈をもって、戻って読み直すと、様々な場面が違う意味合いを持ってきます。

地下鉄の入り口で「あああ…」と呻いた時、主人公は真実に気づいたのではないでしょうか。だから、編集者に反感を持っていたはずなのに、事件を題材にした漫画を描くことを決意した。

現場で写真を撮っていた時に悲鳴をあげたのは、友人がそこにいたこと気が付いたためと解釈できます。最後のシーンの服装と同じなのがヒントです。

「防衛本能、当たり前ですよ」
「当たり前だと思わなかった」
 だから、こう答えているのです。

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