精神障害者の生活におけるステップアップって義務なのか?

精神障害を抱えて地域で暮らす方で、障害福祉サービスを利用されている方も多いかと思います。
その中で、居宅介護いわゆるホームヘルパーを利用して、家事援助(家事の支援等)や身体介護(入浴排泄等の介助)を受けている方もいらっしゃるでしょう。

今回は精神障害者の人が使う『居宅介護』の家事援助と身体介護の疑問点を書いていきます。

まず、居宅介護とは自宅にて食事や排泄の介助等の身体的な介助を行う『身体介護』と掃除、洗濯、調理などのいわゆる家事を行う『家事援助』 の二つに大別できます。(その他にも通院などを支援する通院等介助というサービスがありますがここでは取り上げません)

この身体介護というサービスと家事援助というサービスは一見はっきりと内容が分かれており、利用者の障害や状況に応じてどのサービスを使うのか明白なように見受けられるでしょう。
例えば、身体障害者で足が動かない、手が動かせないなら、トイレや入浴、食事の介助が必要でしょう、つまり身体介護です。また、精神障害者でうつで動けず掃除や買い物ができないなら家事援助です。もちろん身体障害者でも身体が動かないなら、家事援助も併用して使うことでしょう。


ちなみに『介助』とは直接的な支援を指し、ご飯を本人に食べさせたり、身体を支えてトイレに連れていったり、お風呂で身体を洗ったりする行為です。
そして、家事援助は直接的な支援というよりは間接的な支援で、本人の身の回りのことをするというイメージでしょうか。

さて、これが身体障害ならできないことがはっきりしており、身体介護が必要なことがある程度明白だと思います。

では精神障害者はどうでしょうか?
身体は一見5体満足です。しかし、うつで寝たきりだったり、お風呂に入れなかったりすることが多々あるわけです。また、思考能力が極度に低下し調理や洗濯などの思考力を必要とする活動ができないことも多いです。

このような方に対して家事援助というサービスが適しているように思えるでしょう。
実際その通りで、多くの精神障害者で地域生活をする方は家事援助を活用しているケースがあります。

しかし、精神障害者に対しても身体介護というサービスが適応されるケースも少なくないのです。※市区町村により判断が異なります
精神障害者に対してはいわゆる『介助』というサービスが提供されるのはおそらく稀です。
それではどのようなものが身体介護となるのか。
それは『共同実践』です。簡単にいうと『ヘルパーと一緒に家事を行う』ことになります。実はこの一緒に家事をやる行為は場合によっては身体介護として扱われることがあります。

そしてしばしば精神障害者がヘルパーを利用する際、ヘルパーと一緒に家事をおこない訓練をして生活力を鍛えるという支援が提供されるのです。これは身体介護に該当することがあります。※市区町村により判断が異なる
このいわゆる共同実践はできる見込みのある人、ステップアップすることができる人に提供されると考えられる。

しかし、ここで疑問となるのが、誰もがステップアップを望むのかということだ。頑張って、または無理をしてそのレベルを目指すことが義務となるのかという疑問だ。
我々相談員が居宅介護サービスを調整する際にはよくこのステップアップを目指すということが前提でサービス利用プランを立てる。
身体障害の方は多くの場合状態が変化しない故に実質的なステップアップは現実的ではない、つまり家事が自分でできるようにはならない。
だが、精神障害の場合は障害の程度にもよるが病相が良くなれば家事がこなせるようになる可能性は決して低くない。

この時、そのステップアップは義務なのか。それを相談支援専門員やヘルパーのサービス提供者がゴールとして設定することは良いことなのか。もちろん本人がそれを目指しているなら何もいうことはない。だが、必ずしも、というかほとんどのニーズとして、できるようになるという目標を自身から設定したがる精神障害者をみたことがない。
障害福祉サービスの目的が『自立支援』だとして、その自立支援の概念とはノーマライゼーションに帰結するものだろう。つまり、健常者と同様に生活できるようになるというものだ。それは必ずしも『できるようになる』というものではない。

『やってもらうことでできる』と『できるようになる』は別のものだ。
身体障害者は前者が許されて、精神障害者は後者でなくてはならないというルールはないはずだ。しかし、多くの精神障害者には後者を求める傾向があるように感じる。
確かにできるようになることは素敵なことだ、だがそれは容易なことでもないし、必ずしもその苦しい道を歩ませる必要があるのだろうか。

次回は精神障害者でもステップアップを名目に身体介護を使うことになる『裏事情』について記していきます。

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