海辺の朽ちたローラーコースター遠く剥き出しの自由の女神が見える(加藤治郎)

新刊『海辺のローラーコースター』からの一首だ。表題歌のひとつであり、素直に読ませてくれる写生歌にもとれる。私も行ったことのある長島スパーランドの白鯨がイメージなのだろうと想像できるし、その風景を詠んだ一首としてもじゅうぶんに魅力的だ。しかし、私にはそうは見えず、どこまでもエロティックな作者の性的感覚の現在の姿が描かれているように読めた。それは67ページあたりの一連と併せ読むとなおさらなのであるが、ローラーコースターはどこまでも性的快感の比喩かと思う。「朽ちた」と謙遜はされていても、まだまだ走れるコースターである。「女神」からも誘惑されている。もっと自由に愛して自由に感じていいのかもしれない、と思いつつ、自分から奔放になることには戸惑いがあるのだろう。だから「遠く」から「見える」と客観視しているのだ。その戸惑いは、この一冊の中では随所に表れており、自分と同い年だったころの岡井隆を意識しているように分析できた。老いの声をきいてからもますますすべてに精力的だった火球、岡井隆。その人を超えられる歌人がいるとしたら、現役歌人ではただひとり加藤治郎なのだから、ますます加速したローラーコースターであってほしいものだ。

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