「あんたらは雪の心配なくていい」福島の母も宮城の義母も (加藤万結子)

人間が普通に生活するために、伴なってくる苦労や心配は、環境によって異なる。日本の中では食糧が得られない地域こそないだろうが、台風やら地震やら水害やら水不足やら雪やらは、地域によって深刻な場合がある。この歌の主体は夫婦で、雪の心配のない地方に居を構えているのだ。しかし、その二人の出身は、雪の心配のある福島と宮城であることがわかる。逃げたわけではあるまいが、過酷なふるさとに親を置いたまま、都会で暮らす若い世代の現実が見えてくる。その背景にある、双方の親の複雑な気持ちが、この一言でなんとよくあらわされていることだろう。田舎に残された親は、どんどん高齢化するなかで、心が弱っていくにちがいない。しかし、都会できちんと家庭を営んで生活している立派な社会人の娘夫婦を責めるわけにもいかないのだ。そんな繊細な気持ちが、余計な説明なしに伝わってくる。真摯であり、かつ優しい一首であろう。

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