吾亦紅ひとつ点してひと夏の人に言えない恋を弔う (茂泉朋子)

こ!これはっ!!と思った。なんとあざとい歌だろう。いや、確かにあざとい要素が満載なのに、それは人為的なものではないのだ。きっと作者も気付いてないと思う。自身の美しさと艶やかさに自覚がない美女のように、この歌は完璧な美しさをもって一瞬で人を魅了する。まず、スタイルとも言える音韻が美しい。「ひとつ」「ひと夏」「人」という儚い「ひ」音。それに「弔う」を加えた4つの「と」音の心細い破裂。声に出してみれば一度でその悲しげな世界観が迫ってくるではないか。そしてまた、パーツとも言える単語選びが美しい。「吾亦紅」「点す」「恋」「弔う」こんな特上の材料が揃えられているのだ。それらはまるで縁語のように我々の連想をかきたてる。小さな恋の炎のような吾亦紅のカタチ、そして恋の色とも言えるような可憐な紅色。しかし同時にその炎は弔いに用いられる蝋燭の火のようでもある。これだけ外面的な要素が揃っていると、えてして心がないがしろになりがちなものだが、この歌は違う。実体のある花の姿と恋していたであろう女性の姿がストレートにスケッチされているため、言葉遊びやファンタジーに終わらないのだ。諦めなければならなかったひと夏の恋を、修羅場にならないうちに弔うのに蝋燭一本はふさわしい。吾亦紅の花ことばが「愛慕」と「変化」というところまで計算されているとしたら尚更おそろしい秀歌である。

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