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駒﨑友海 映像作品展 2021.9.30-10.31

ギャラリー暮 展覧会記録         『駒﨑友海 映像作品展』          2021.9.30-10.31

 『モルモランド』 4'08"

 『Out of My Mind』    6'45"

上記2作品を上映の他、Circle(0'09" )、イラスト作品1点を展示。於 上野桜木ギャラリー暮


以下に、作品内容について鑑賞者の視点から考察した文章を記載する。

****                  駒﨑友海作品について

 駒﨑友海の作品と初めて出会ったのは、6年程前である。彼女が女子美学生の頃に、今回上映作品である「モルモランド」を見た。その時は、ただ単純に良い作品だと、心の中で思うまでだった。

 今回、この三畳間で映像作品展を行う流れとなり、改めてモルモランドを鑑賞し、以前に増して、このアニメーションの鮮烈さが伝わり、作品としての強さに驚いた。
 本文では、一鑑賞者の視点から駒﨑作品を私なりに読み解いた内容を記載したいと思う。

 モルモランドという作品の根底には、彼女の生命観が映し出されている。私には、この4分程の短編作品に凝縮した形で、宇宙の原理を見事に描き出しているように感じられる。私はそれこそがこの作品の強さとなり、鑑賞者に何度も見たいと思わせる理由ではないかと思う。

 今回、上映している作品は駒﨑の学生時代の2作品で、その2つの作品の共通のテーマは"孤独"である。

 「モルモランド」は、ある女性の日常シーンの中、食物を咀嚼する行為を描いている。そこには、時間の流れ、呼吸=肉体の生命活動と、食卓に並ぶ"何か"がある。その食卓に並んでいるのは死んだ食物ではなく、絶えず変化し続ける何かである。女性はそれをどんどん口へ放り込み、蝶も芋虫も残らず口へ入って行く。
 私は、食卓に並んでいるのは、この世界に存在し流動する全てのものを表しているのではないかと連想する。私達はひと呼吸、ひと呼吸で絶えず生命活動を行っている。肉体の破壊と再構築をくり返し、食べるという日常の行為が必要である。さらに、他の生命との連鎖の中で生きている。
 駒﨑の作品は、そういう人間が無意識に行っている生命活動と、この世界との連鎖を描き出している。そして、鑑賞者の身体感覚にまでアプローチするものだと思う。観る者は、心がざわつき、暗い部屋の中で、一つの生命体としてその孤独と対峙することになる。

 もう一つの作品「Out of My Mind」は、夢の中を表現しているのではないかと思う。
 主人公は、田舎の家で1人で寝ているのかと思いきや、おそらく、この人がいるのは都会の家の寝室である。
 通勤ラッシュが度々出てくる。何かに追われて逃げるようにしているが、逃れられない。田舎の風景に逃げ込んでは、また、都会のラッシュに引き戻される。
 この作品は、そのような思考の迷走を、夢の次元の映像として作り込んでいる。スクリーンに映し出されているのは、現実に起こらないような違和感がある風景であり、それは迷走している主人公の脳内である。
 夢の世界を迷走する思考と嫌悪感が、孤独の状態を炙り出して行く様な作品である。

 駒﨑のアニメーション作品の良さは、モノクロ・二次元・アニメーションという実質的な限界を感じさせないところだと思う。それは、確固たる生命観と、創作者として柔軟な姿勢を持っているからだと思う。
 現実的な制約に捉われずに描くことができるからこそ、夢の中で迷走する思考をアニメーションという作品形態に落とし込める訳で、鑑賞者を彼女の世界へ引き込み、さらに観る者の心をざわつかせるという技は、誰にでもできる事ではない。だから、彼女のアニメーターとしての跳躍力にはあっぱれなのだ。

****

 私は、芸術を見ることによって、真実に触れたい、あるいは近づきたいという意識を持っている。時に、芸術は真実への導き役となるのだ。それは芸術の良さの一つだと思う。

 今回、駒﨑友海の作品を上映することになったのは、現在の私が真実に触れようともがいているからであり、私の古い記憶にあった彼女の作品が目を覚まし、作品の再上映によって、さらに深い、肉体に温存されている人間としての深層の記憶へと通じたからなのだと思う。

 誰にとっても、生活する中で重要なのは、日がまた昇り繰り返す間、常に生死と真摯に対峙する姿勢を保つことである様に思う。この会期が終わっても、私の中で、彼女の作品を上映し続けたい。

      ギャラリー暮 主宰 大林幸代


〈作家紹介〉 

駒﨑 友海                                

https://www.tomomikomazaki.com/animation

ディレクター/アニメーター/イラストレーター
1991年 東京都生まれ
女子美術大学芸術学部 ヴィジュアルデザイン専攻を卒業後、東京藝術大学大学院映像研究科 アニメーション専攻を修了。
同年、株式会社ティー・ワイ・オー(現:株式会社TYO)入社。アニメーション表現を軸として広告コンテンツ制作に携わる。
2019年に退社、現在はフリーランスとして活動。

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