見出し画像

『怪獣8号』その新しさと不安について

『怪獣8号』について話をします。松本直也さんが『少年ジャンプ+』で連載しているWEB漫画。(以下ネタバレもあります)

このマンガの新機軸は設定にある。『ウルトラマン』の新機軸は怪獣対巨大ヒーロー、しかもヒーローは二重生活。人としては科学特捜隊のハヤタ隊員だった、という設定。『怪獣8号』はこのハヤタ隊員のポジションに巨大ヒーローではなく敵を据えたところに設定の新機軸があります。
単行本の一巻目はこの設定が躍動していました。怪獣を身に宿しながら怪獣に対抗する防衛隊の一員になった主人公。うっかり正体がバレたら真っ先に殺されかねない状況です。さぁどうなっていくでしょう。
当然物語の展開は、主人公の正体がバレるバレないの駆け引きをしながら、進んでいく展開になるはずです。これはボクが別のところで紹介している「裏表の男」のプロットパターンなのですから。

ところが!主要人物の背景紹介も終わらぬうちに、主人公の正体はばれてしまいました。
えーーーーーーー?
こんなんで話を転がせるの?何故こんなことをしたの? と、ボクは考え込んでしまいました。以下それについてボクの考えをお話します。

まず、何故こんな事をしたかについてです。
閲覧数確保のためだと思います。web漫画はとにかく閲覧数が生命線なのですが、ドラマパートだと一見さんがわかんないんですよね。バレるバレないと言うドラマだとなじみ客は楽しめるけど、通りがかりの人が読んでくれない。かといって、毎回毎回ドラマパートとアクションパートを組み合わせる程ページ数をとることもできない。だったら、怪獣だってバラしちゃって、さっさとそのまま防衛隊の戦力にしちゃおうという作戦だと思います。さらに言えば、こういうチームもので新人が過酷なトレーニングを乗り越えていくシーンとか主要人物の背景を語るという展開もザックリ削いでいます。男女間の深刻にはならない程度のロマンスさえ削ぎ落としています。
そうすると毎回のようにアクションパート出せて閲覧数を稼げるのでしょう。
これらは多分編集者の要望ではないでしょうか?ボクは松本さんの作風を知らないので、あくまでこの作品の単行本から推察する限りですが、設定にすごく凝ってる人だなというのは感じます。例えば怪獣8号のフォルムってのは防衛隊のスーツと基本デザインが同じなのです。これには多分相当深い設定があるわけです。こう言う設定を無視してドンドンいくのは、多分作家の本意ではないでしょう。凝る作家は設定を全部生かしたいものなのです。

画像1

それでもすごい部数売れてるそうですから、商品としては正解だったと思います。
ボクが気になってるのは、こんなんで話を転がせるの? 作品としてはどうなっていくのだろうか? というところですね。設定を生かしてやれることをやらずにバトルにドンドンのめり込んでいる現状は、全面的に首肯できるわけではありません。

ただし…漫画家というのは両手両足縛られてるような状況の方が新しいものを生み出せる可能性もあります。本来常道としてやるべき事をいっさいやらないで進んだ状況だから、今まで見たことないものが生み出せる可能性もあるのです。例えば、『ウルトラマン』では何故か誰も不思議に思わなかった怪獣の登場の理由(たまに人の怨念とか宇宙人の侵掠とか言う理由はありましたが、だいたいは理由がない)を追っかけていくというところで盛り上がっていくかも知れません。それがアクションとうまく絡められればそっちへいくでしょう。

『怪獣8号』、ここまで大変面白かったです。このあとちどうなっていくのか少々不安に思いながら見守っていきたいと思います。

画像2



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?