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縦スクロール漫画の画面構成の特質

突如縦スクロール漫画について話す。
「ウェブトゥーンって言わないのか?」
と、疑問を持つ方もいるだろうが、この小文は縦スクロールという事象も含めているのでそれで通す。

縦スクロール漫画をほとんど読んだことがない。描いたことは……6年くらい前に学生にいろいろ話すための経験として、comicoに何本か掲載したことがあるだけ。あまりに勝手が違うのでそのまま立ち入らなくなってしまった。
最近『漫画の未来』という本を読んだ。見開き漫画と縦スクロール漫画の商業的な展開について語っていた。
「この先、縦スクロール漫画が幅を利かせるのかなあ」
と、少し暗い気持ちになったものである。

またジャンプが縦スクロール漫画のサイトを開設。この辺りの集英社の機敏さには本当に驚く。驚いてばかりでもなんなんで、最近出して『喧嘩独学』という漫画を読んでみた。WEB上の縦スクロール形式で。完全に韓国で制作された漫画だ。
面白い。絵も上手だし、動画配信の収益について細かく解説していくアイディアがストーリーの推進力になってるのも良い。
ただ読んでいるうちに息苦しくなってくる。何故だろう?縦スクロールを読み慣れていないせいか? と思ったが、違うらしい。
どうやら遠近法の問題なのだ。

韓国の絵画の遠近法がどういう習慣かはわからないけど、韓国の縦スクロール漫画は基本、透視図法で描かれているようだ。透視図法は消失点というルールに沿って厳格に描かれている遠近の描き方。ルールに沿った画面なので引き締まった緊張感がある。
また、透視図法には「奥にあるものの上に手前にあるものの絵が重なる」という性格がある。何人ものキャラクターが出ている場面で表情を見せようとすると、一人一コマが原則になってくる。読者はいつもそのコマの中心(大概は話者)と向かい合う形になりやすい。
そういう画面をスマートフォンの縦長画面で縦にスクロールしてみていくと、読者は常に縦長のスリットから奥行きの深い画面を見させられてる感じになる。
これは息苦しいし、疲れる。

バンドデシネやアメリカンコミックも徹底的に透視図法に沿って描かれているが、見開き漫画の場合は横位置や変形ゴマが使用可能なので、真横からの平板な絵も織り交ぜやすい。コマ割りを工夫して読者の緊張感を緩めている。

日本の見開き漫画の場合、日本古来からの上下遠近法を使うことが多く画面に強いルールの存在を感じさせないことも多い。向かい合って喋る二人の人物を真横から描くような平板な絵も多く使われる。これに加え、コマ枠を描かなかったりコマそのものを描かなかったり背景だけにしたり、読み味を軽くして緊張感を持たせないようにするのが、日本漫画の特質である。

その目でオール日本人制作の縦スクロール漫画を見てみた。そうすると、韓国産よりずっと画面構成が緩いのがわかる。息苦しさが少ない。日本の漫画の読み味の軽さを、スクロールするスピードにシンクロさせようとしてる努力が感じられる。制作現場の人がそもそも日本見開き漫画に熟達してるわけではないだろう。しかし
「なんかこんな感じ。こんなふうにしたい」
を繰り返してるうちに、和韓(かな?)折衷のスタイルを作り出そうとしているのだろう。
驚き。
漢字が日本に入ってきた時とか銃が伝わってきた時、これに類するような事が行われたのだと思う。
歴史の本に書かれていることが自分の関わるジャンルで進んでいるというのを、目の当たりにするというのは本当に驚きだ!

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