検事の本懐 第一話 樹を見る(著者:柚月裕子)
著作者:柚月裕子 発行:株式会社KADOKAWA 平成30年7月24日発行
県下警察署長会議の場面から物語は始まる。米崎(よねざき)東警察署長の南場輝久は、本部の刑事部長佐野茂から所管の警察署管内で起きている連続放火事件で責められている。南場は、胃が刺すように痛む。佐野刑事部長は、犯人をいまだに検挙できずにいるのは南場の責任であるとして、非難を延々と続ける。佐野が南場の無能さを責め立てるのは、署長会議が開催されるたびに行われた。
刑事部長の佐野は、南場の警察学校の同期である。警察学校では、試験の成績はたいてい南場がトップで、佐野は二番だった。『ふたりの能力で大きく違っていたのは武道だ。学生時代、柔道をしていた南場は体幹が強かった。身体ができあがっているので、剣道や護身術なども楽にこなせた。』
『武道で佐野が南場に勝つことは一度としてなかった。倒された佐野は、南場を睨みつけていた。あのときの佐野の、屈辱と怒りに燃える目を、南場はいまでも覚えている。』
『佐野には南場にない才能があった。人間関係を円滑に築いていく能力、世渡りの才覚だ。』『佐野は人事権を持っている上席の懐に取り入り、出世街道への切符を手に入れた。』
三件の放火が起きた際、『南場は、すぐに対策を練った。緊急対策会議を開き、現場付近の地取りと目撃情報の収集、週末の防犯パトロールを強化させた。』しかし、犯行は続き、現在、放火は、十八件にも及んでいた。一件だけ被害者がでた火災があった。十三件目の放火だ。これは、現住建造物等にあたる住居への放火だった。
果たして、犯人は検挙されるのか。米崎地検は、佐方貞人検事はどう動くのか。今後の展開が期待される。
注:『』は引用文
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