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検事の本懐 第二話 罪を押す(著者:柚月裕子)

著作者:柚月裕子 発行:株式会社KADOKAWA 平成30年7月24日発行
 
米崎地検に身柄付送致があった。被疑者は、小野辰二郎(たつじろう)。『小野は三年前、筒井副部長が起訴した男だった。当時、小野は五十四歳、住居侵入罪及び窃盗罪で警察から送致されてきた。』『筒井は小野を起訴した。裁判官が小野に下した判決は、実刑三年。』
 
被害額は約五万円と少なかったが、『小野は窃盗や無銭飲食などの微罪の常習犯で、娑婆(しゃば)と刑務所を行ったり来たりしている累犯者だった。』
 
今回の小野の犯行は、ディスカウントショップでのことである。小野は、店員が目を離した隙に腕時計一点を盗んだ。店員は、逃走する小野を捉え、小野は駆け付けた警官に逮捕された。
 
『小野は、全面的に犯行を認めた。』筒井副部長はつぶやく。『小野は刑務所に戻りたかっただけだ。店員が見ていない隙を狙った犯行とはいえ、わざわざショーケースから腕時計を出させて盗むなど、捕まえてください、と言っているようなものだ。』
 
この件を任された佐方貞人検事は筒井副部長に、こう言う。『「小野の窃盗事件、調べが終わりました。」「小野は起訴しません。」「あとは本人が、それを認めるかどうかです。今日、小野を呼んで取り調べを行います。」』
 
そして、取り調べの中で佐方検事は、言う。『「小野さん、あんたは間違ってる。」』
 
これは、どういう意味か。小野は無実だというのか。佐方検事は何をつかんだのか。一見単純な犯行に見えるこの事件に何が隠されているのか。
 
注:『』は引用文

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