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長崎のダイスケ

これは今から遡ること5年前のある日の日記です。自戒を込めて時々思い出します。

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配達先の山崎サントリー工場敷地内で死んでいた仲間を葬りました、とのメールがサンパギータ元ベーシスト(夫)からきていました。写真はひばりという鳥です。名前はよく聞くけど初めて見ました、死体ですけど。彼は無類の鳥好きで子ども時分から常に鳥を飼っているそうです。野生のはとを訓練していたこともあるそうで、今ウチにいるのはゴシキセイガイインコという南国系の鳥です。なんと67000円もしました。670円ちがいますよ。(因みにその鳥は亡くなり現在飼っている鳥は250000円ですよ!)その時こいつは鳥キチ(ガイ)やと知りました。一緒にお風呂入ったり、布団に入れて添い寝させたり、鳥も最初は嫌がっていましたが8年経った今は満更でもなさそうです。そんな鳥キチの夫に隠し事ができてしまいました。

長崎のダイスケのことです。話したら絶対怒られる、と怖くて言えなかったのですが昨晩意を決し「絶対怒らんて約束して。怖いから。絶対やで」と念押しのうえ打ち明けました。
ダイスケと出会ったのは、一昨日の仕事帰り梅田のスカイビル前信号付近です。ダイスケは挙動不審に前進、後退しながらキョロキョロしていました。横をすり抜けて行こうとすると「関西空港はこっちの方で合ってますか?長崎から来たんですが」と私に道を尋ねてきました。案の定です。思い返せば中学校の頃から養護学級の同級生(女子)に懐かれ抱きつかれお世話係にされ、高校は女子高でしたが本気のレズビアンに迫られ、高校中退後に大検受けに行った帰りの公園で見知らぬサラリーマンに人生相談され、未だに電車でもストレンジな方が寄ってきます。他人事なら笑えても自分事なので深刻、隙があるのが原因と誰かに言われました。

梅田から関西空港を目指していたダイスケの話をまとめると以下の通りです。
日曜日の始発の新幹線でライオンキングを日帰りで観る予定で長崎から大阪に来ました。長崎の新幹線までお母さんに車で送ってもらい、その車に財布と携帯忘れました。その事に気付いたのはライオンキング始まる直前です。新幹線の切符は新大阪まででしたので、劇場(大阪駅)までは来れました。ライオンキングを大阪で観るのは初めてでシンバが関西弁で驚きました。ライオンキングを観るのは12回目位ですが劇団四季のファンというわけではありません。ライオンキングが終わり現実に戻りました。親切な方がテレホンカードをくれたのでお母さんに電話したら、土曜日に関西空港まで、ピーチ何とかという飛行機で迎えに来てくれるそうなのでとりあえず関西空港に行こうと思い道を聞いたらスカイビル方面を指されたので歩いて来ました。こっちの方角で合ってますか?とのことです。突っ込みどころ満載でどこから突っ込んでいいのか焦ります。

とりあえず、梅田から関西空港までは歩いて行ける距離ではないこと、行くとしたら大阪からJRか又は難波まで出て南海電車に乗る必要があること、しかし関西空港まで行けたとして今日は水曜だけれど土曜までどうするのかということ→「日曜から水曜までは梅田付近で野宿したり3時から開く夜行バス待ち合い室で過ごしていました。空港ならば24時間開いているように思いました」、警察に行ってお金借りれなかったのかということ→「行って事情を話したら気の毒だけど規則で貸せない、内緒で1000円渡すけど返さなくていいからと言われて、もらった1000円で今日まで過ごしていました」、君は大学生か何なん?一体いくつなん?→「介護の仕事に就いていたが退職して時間ができたのでライオンキングを観に来て、今月で23歳になりました(ここでダイスケは免許証をリュックから取り出し提示し何故か照れる)」、で、どうすんの自分→「長崎に帰りたいです。でも帰れなくてお腹空いて疲れました」
もう話の流れからヤバい子やボーッとし過ぎという所感を抱き、要点の掴めない話し方から一緒に仕事したくないタイプやな、数年後息子もこんなんなるんかな、その時誰か助けてくれるんかな、私も15の頃京都で帰れなくて交番で交通費恵んでもらったな、18切符で東京行った時乗り換え深夜の大垣駅でタバコ1本おじいさんにあげたな、天王寺の立ち食いうどん屋で素うどん食べてたら隣のおっちゃんが肉入れてくれたな、など様々な思いが去来しました。
それで、ここまで話を聞いてしまい暫くヨドバシカメラ前でダイスケと二人途方に暮れた訳ですが、空も暗くなりつつあり私も暇人ではないので保育園のお迎えもあるし面倒臭くなり、金を貸してくれとは言われてないし貧乏なので貸すのは本当に嫌だけれども長崎まで帰る一番安い方法は一体何なのだ?と尋ねると、ユタカライナーという名の深夜バスが一番安いのですとダイスケは答えました。

はい、大馬鹿者の私はさっき会ったばかりのダイスケの為にユタカライナーに電話しその夜の座席を取ってやり、コンビニで僅かな残金からバス代7000円おろし「あげるんちゃうで、貸すだけやで。返してや」と言って渡しました。君を信用しない訳ではないが免許証のコピーを取らせろと言いスマホで免許証の写真撮り、梅田の深夜バス発着所まで送ってやりました。道々ダイスケは何度もお礼を言いました。でも安堵したのかダイスケは歩きながら「大阪って山がないですね。長崎は土地がすり鉢状になっていてそこに家が建っているのです。斜面にもたくさん建っているのです」と呑気に言いました。「しかしきみ、23にもなって財布も携帯も忘れるとかあかんよ。しっかりしや」と私も腹がたってきて、でもローソンでパンとおにぎり買ってやりました。ほとんど親戚のおばちゃんです。「お金どうやって返したらいいですか?」と聞くので口座番号を教えるのは嫌で仕方なく郵便為替で送ってもらうことにし住所と名前を紙に書いて渡しました。(ダイスケがオレオレ詐欺集団だった場合、私は自爆)
「本当にありがとうございました。助かりました」と頭を下げるダイスケに「絶対、金返してや」と言って別れました。
その話を聞いた旦那さんは、「ゆみこん、それなんてゆうか知ってる?…寸借詐欺」と呟きました。「でも、しゃあないわ。そんなこともあるよ、人生。ま、俺やったら関空までの電車代だけやるけど。別に土曜まで水飲んでたら死なへんし。バス代まであげるんはお人好し過ぎるかもなぁ」「いや、あげたんちゃうくて貸したから返ってくるよ」と私。「それは返ってこんなぁ。俺も返してもらったことない。でも、そういうこともあるし、しゃあないよ」ってあなたも詐欺られた経験ありなの?
いや、ダイスケはそんな奴ちゃうで!信じてるでダイスケ。しかし、長崎着いて5日経つはずやけどまだお金届きません。住所の紙落としたんちゃうやろな。金返せー!ダイスケ。

…後日談としては、約3ヶ月後に曽根崎警察署知能犯係から電話がかかってきてダイスケが寸借詐欺犯として逮捕されたことを知りました。余罪が50件ほど有ったそうです。もちろん7000円は返ってこず、騙されました。そんなことって、あるんです。お人好しを通り越して、ホンモノの馬鹿。


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